第3回(1987)
1987年
11 /11 水
会場:国立京都国際会館
第3回(1987) 京都賞受賞者
講演テーマ
金属学と材料科学・工学の進歩
講演要旨
約10万年前に人類が出現して以来、材料というものは、人間存在のなかにますます浸透してきています。文化と材料との結びつきは強まり、現在約 150億トンにのぼる材料が毎年、自然から採掘され、収穫され、引き上げられて、無数の建物や機械や装置や、社会的目的に役立つものに使用されています。 しかし、このような世界的な事業が巨大で重要なものであり、一かたまりの地球規模の材料と呼ばれることもよくあるにもかかわらず、材料の分野が知的な意味 で注目されるようになったのは過去30年さかのぼるにすぎません。事実上注目されるようになったのは、金属学の中心テーマ(つまり、金属的状態の加工処 理、構造、特性、性能の相互関係)を、手に入れやすく、社会に役立つ材料という異なった視点にもっていったからです。言い換えれば、金属学という学問は、 材料科学・工学に、新しく、より広い分野の優れた模範を示し、今や欠くことのできない一部門となっているのです。 しかしながら、材料科学・工学では役に立ついくつかの学科は、まとまった知識分野として充分に役立つほどお互いになじんではいません。だから、材 料科学・工学というものはいまだ活気のある変遷段階にあり、多くの学科が含まれていると見なされるべきでしょう。材料科学・工学がほんとうに一貫した一つ の学問に発展できるのかどうか。社会が判断するには時間が、たぶん1世代か2世代ぐらいかかるでしょう。注目されようと奮闘しているほかの知識分野とも競 わなくてはならないでしょう。そして、社会の決定的な判断は二つの微妙な基準によって下されるように思えます。材料科学・工学が、人類が自然をより徹底的 に理解することをいかにうまく助けるか、そして、社会が自然をより賢く利用することをいかにうまく助けられるか、という二点です。 概念的には金属学と材料科学・工学には多くの共通点があります。双方とも、その科学的内容と工学的内容との間に明確な区別はなく、また、どちらも 悠々と持続させることによって特別な力を蓄えます。両方とも、科学的知識と経験的知識とがピッタリ合うときに、もっとも大きく進歩します。この相互作用に おいて、新しい理論を考えるよりも新しい加工処理や実験をして前進することのほうが、いまだによくあるです。ゆえに、材料科学・工学では、金属学と同様 に、材料の反応は最初の法則から予想されたものとはかなり異なった、加工処理と構造、構造と特性、特性と性能との間に見出される共働の相互作用が証明され たりするのです。最近の進んだ材料の開発例が、これからの相互関係の作用をうまく説明してくれます。
講演テーマ
地平線
講演要旨
われわれが子どものころに、“われわれの”地平線によって境界を設けられた世界を見ていたときから、その地平線という仕切りが約130億光年かなたの<ビックバン>にまでひろがった現代の、膨張している宇宙の時代にいたるまでの、われわれの世界観の発展についてお話しします。 地球外の世界の最初の科学的おモデルは、古代ギリシャ人たちが考えたものでした。このモデルは非常に精巧なもので、ほぼ2000年近くもわれわれの天文学的知識の基準となっていました。太陽系に最初に興味をもったのも、古代ギリシャ人たちでした。太陽系外の世界が観察できるようになったのは19世紀になってからで、技術的大進歩のおかげで大型の望遠鏡が開発されたからでした。太陽系外の研究理論の先駆者の一人がオランダ・フローニンゲン大学のJ.C.カプタインです。彼は自分の研究所で、われわれを取り巻く莫大な星の数に関するすべての研究を指導していました。 私と天文学との関わりは、このフローニンゲンで研究をはじめたときに始まりました。カプタインからの多くの学問的刺激の影響のもとで、私は銀河系研究の初期の段階に深くかかわっていったのです。 銀河系の研究においては、一つ特別な問題がありました。カプタインのいう<選択領域>の星を基本的な論点とする、いわゆるカプタイン・システムと、シャープレーによって提唱された球形のクラスターの分布を基礎とした理論モデルとが明らかに矛盾することでした。1925~27年にリンドプラッドとオールトによって銀河系の回転が発見去れた為、この論争は解決しました。ほんとうの銀河系は、カプタイン・システムともシャープレーの説とも違うということが証明されたわけです。この銀河系の回転の発見のおかげで、いくつかの積年の問題にも新たな考察が加えられました。1902年にカプタインに発見された<星の流れ>や、高速の星の動きなどはその結果の一例です。 新しい銀河系の主な特徴は、星々と、惑星間にあるガスとちりの雲とで、薄い円盤状になっていることでした。その星の円盤の大部分はちりで見えにくくされていたため、われわれの視界には入らなかったのです。それらは、電波天文学、つまり、ちりにじゃまされずにやってこれる電波の出現によって、はじめて観察できるようになったのです。銀河系の円盤の大規模な構造を表す電波地図は、1954年、オランダではじめて作成されました。それによってわれわれの銀河系は、宇宙にある多くの銀河系外の<星雲>と同じように、渦状の構造をしていることが証明されたのです。 これらの星雲、または<銀河系>はいまや、宇宙の構造と進化に関する研究対象の中心となっています。そしてすでに2つの大きな発見がなされています。1つは、宇宙は膨張しつつあるということで、約130億年前に小さな体積のものから膨張しはじめたに違いない、ということ。2つ目は、宇宙は等方的な放射に満たされていることです。その放射は、はるか昔には宇宙は非常に高温だったが、今は絶対零度の上の3度にまで冷えてしまったということを表し、その温度も実際に計測されています。 現在研究中の主な“実験的”課題は、銀河や銀河団、<超銀河集団>と呼ばれる巨大な構造がどのように形成され、進化してきたかということです。多くのことが、いまだに謎です。
講演テーマ
カメラを通して人生を見る
講演要旨
本記念講演会主催者の要請により、私の30年にわたる映画・演劇人としての生活を振り返ってみました。それは一つの映画から次の映画へと続く映画製作の数々、そして舞台演出の数々であり、またそれによって何か一般的な教えとか原則を引き出して、皆様に問うてみようという試みでした。 私は何か素晴らしいことを発見してきたでしょうか?私は映画そのものについて述べているのではなく、仕事の方法についてお話しているのです。 この試みは「私は自分の時間を有効に利用しただろうか」という疑問にすべて集約されます。 私の最初に意識した体験は戦争でした。人の生活がいかに消え、そしてそれが何と短いものかを私は見てしまいました。この個人的体験から、また自分のすべての計画を遂行するには時間が足りないのを承知していますから、私はどんな仕事も後にまわすということはしませんでした。 戦後の苦しい時代に我が国で繰り返された社会的、政治的危機から、より良き政治的状況を待ち望んでも詮ないことだということを私は学びました。 映画と演劇は共通の活動領域をもつ芸術です。 演出家にとって自分個人だけが芸術家であるだけでは不十分であり、演出家と共に働く俳優達を芸術家として育てあげる能力が必要とされます。 芸術家は自分個人の資質とは別に、本人の出自する国にもとづくある種の天才的火花をも保持する必要があるのでしょう。この天才的資質を育てあげ、またそれをもって世界のどこに問うても良いでしょう。しかしどんなに苦労しても、また老年になって人混みのなかでもまれても「有り難う」と言える、自分の祖国が在ることが好ましいものです。 以上に述べたことのすべてから、ポーランドにおける演出家がなぜ政治的問題に発言し、個人や団体の自由にかかわる社会的討議に参加すべきか、その理由がはっきりおわかり戴けるでしょう。 我々は社会的人間であらねばなりません。なぜなら演劇にも映画も集団のなかで生まれ、そして大衆のために捧げられるからです。