第29回(2013)
2013年
11 /11 月
会場:国立京都国際会館
第29回(2013) 京都賞受賞者
講演テーマ
創造への途(みち)—私の開発者人生—
講演要旨
私は、世界大恐慌最中の1932年にテキサス州で生まれました。貧しく電気もない農家に育ち、最初に通った学校も教室が1つだけでした。そんなところから始まって私が電気工学の分野でそれなりの成功を収めたことに驚かれるかもしれません。講演では、この間に私の性格や考え方を鍛えてくれたことや成功の要因にもなった教育に関することなど、人生での重要なステップを振り返ってみたいと思います。 私は、コンピュータ分野が急速に成長している時代に、そして何よりマイクロエレクトロニクスの黎明期にIBM研究所に就職できたことは非常に幸運だったと思います。DRAMを発明するきっかけになったこと、構想に描いたシンプルな構造を実現するまで開発意欲を持ち続けることができた理由をお話しします。 マイクロエレクトロニクスのスケーリング則への貢献も、コンピュータ・メモリのコストを大幅に削減する、そのためにはDRAMを大幅に小型化しなければならないという意欲的な目標を掲げた新しいプロジェクトの初期の段階で実現しました。私は、数人いた共同研究者の先頭に立って、DRAMやその他のマイクロエレクトロニクス回路で使われているトランジスタのサイズを大幅に縮小しても動作が保証されるにはどうすればよいかを研究しました。そして、トランジスタが正常に機能し、ずっと少ないエネルギー消費で、より高速に動作させることができるスケーリング則を考案しました。併せて、非常に小型化したDRAMを試作し、実際に適用できることを示しました。日本、そして世界中で超大規模集積回路(VLSI)の開発計画へと繋がったこの仕事のインパクトについても触れてみます。 私がうまくいった理由や他の発明家の人たちと話した結果を振り返ってみると、工学分野で創造的な人々には共通した特徴があることに気付きます。私の結論とスローガンは「考え方(取り組む姿勢)がすべて」です。講演の中で、その意味するところを説明し、私が研究開発を推し進める力となる考え方をどのようにして身につけたかをお話します。 講演の最後では、クリーンエネルギーの供給、環境保全、そして今世紀やそれ以降の地球温暖化の極小化や制御など、長期的かつ世界的な将来の問題を議論したいと思います。私たちの世代が開発したコンピュータや通信の技術が役立つことを願っていますが、この問題の複雑さや難しさは、その解決のためにあらゆる学問分野の人たちの参画を必要としていることも実感しています。
講演テーマ
進化生物学の理論と現実
講演要旨
子どもの頃の私は普通の少年で、特に科学者になりたいという気持ちはありませんでした。この状況は、1946年に戦時中の爆弾の発火装置が爆発して左目の視力を失ってしまい、一変しました。この事故で1ヶ月ほどの入院を余儀なくされましたが、その間に、生まれて初めて、自分のこれからの人生のことを真剣に考えました。私が集団遺伝学と進化に関心を持ったのは大学1年生の時でした。私が得意とする数学の知識を活かせるとわかったのが主な理由でした。当時の進化生物学は、非常に推論的で、形態学的形質の研究に基づいていましたが、これらの形質は環境要因に強く影響を受けるため、遺伝的変化の起こることを知るのが困難でした。一方、集団遺伝学は、より厳密で、遺伝子レベルでの進化、動植物の育種、及び臨床遺伝学の理論的な研究を扱うものでした。そこで、私は数理集団遺伝学の研究をすることに決め、この研究が生物の長期的な進化の理解に役立つものになるようにしたいと思いました。幸運なことに、1960年ごろに、進化の研究が分子レベルでも行われるようになりました。それで、私たちは分子データを考慮に入れた新しい進化理論を発表することができました。この時の私の最初の研究テーマの一つは、表現型進化への遺伝子重複の影響に関するものでした。この研究で、脊椎動物が多くの重複遺伝子と偽遺伝子(機能しない遺伝子)を持つことを予測しました。それから30年経って、ゲノム配列の研究が行われるようになり、その正しさが証明されました。私はまた、集団間の遺伝的相違の程度を測定する遺伝的距離の理論も開発しました。私はこの理論を人類に適用し、最初にアフリカ系とその他の人種に分岐したのがおよそ10万年前で、その後、非アフリカ系が残りの世界を占めるようになったと結論付けました。最近のゲノムデータもこの結論の主な論点を裏付けています。この遺伝的距離の理論は、現在では、進化生物学や様々な生物に関する保全生物学の分野で広く利用されています。さらに、私は系統樹作成のための近隣結合法も開発しました。この論文は、現在までに33,000回以上も引用されています。加えて、DNA配列レベルで自然淘汰の程度を測定する方法も開発しました。これは、進化研究の標準的手法として一般に利用されています。また、私は表現形質を制御する多くの免疫遺伝子と非免疫遺伝子の進化様式を解析しました。そして、これらの研究成果を基に、『Mutation-Driven Evolution(突然変異主動進化説)』(オックスフォード大学出版 2013年)と呼ぶ新しい進化理論を発表しました。
講演テーマ
受賞記念パフォーマンス
講演要旨