Yoshinori Ohsumi
第28回(2012)受賞
生命科学及び医学(分子生物学・細胞生物学・システム生物学等)
/ 分子細胞生物学者
1945 -
東京工業大学 特任教授
細胞が栄養環境などに適応して自らのタンパク質分解を行う自食作用「オートファジー」に関して、酵母を用いた細胞遺伝学的な研究を進めて世界をリードする成果をあげ、その分子機構や多様な生理的意義の解明において、多大な貢献を果たした。
[受賞当時の対象分野: 生命科学(分子生物学・細胞生物学・神経生物学)]
大隅良典博士は、細胞が栄養環境などに適応して自らタンパク質分解を行うオートファジー(自食作用)に関して、酵母を用いた細胞遺伝学的な研究を進め、世界をリードする成果をあげた。オートファジーは、1960年初頭に、動物細胞内の食胞として知られているリソソーム中に細胞質成分であるミトコンドリアや小胞体が一重膜で囲まれて存在していることから提唱された概念で、細胞内成分や細胞内小器官がリソソームに取り込まれて分解を受ける過程を意味する。その後、多種類の細胞やいくつかの臓器でこの現象が報告されてきたが、オートファジーの分子メカニズムや生理的意義は不明なままであった。大隅博士は、出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeで空胞の機能を研究していたが、1992年、タンパク質分解酵素B欠損株を低栄養培地に曝すことにより空胞中に一重膜で囲まれた細胞内小器官成分が出現すること、即ち、酵母でオートファジーが誘導できることを発見した。同博士は、ついで上記現象を利用して、タンパク質分解抑制と栄養飢餓によってもオートファジーが誘導されない多数の変異株を同定した。博士の酵母におけるオートファジーと変異株の発見は、オートファジーの分子機構解析に道を拓いたものである。これが基盤となり、これまでオートファジーに関係する数十の分子が同定され、これらの機能解析により、飢餓などの刺激に応じて、どのようにして細胞内成分や細胞内小器官を囲む新規の膜構造が形成され、これがリソソームに融合するかの道筋が明らかになりつつある。
酵母におけるオートファジー関連分子の発見は、哺乳類を含む動物細胞でのオートファジー関連分子の同定につながり、これらを利用して、動物におけるオートファジーの多様な生理的意義が多くの研究者により明らかにされた。すなわち、オートファジーが出生に伴う飢餓状態への適応に不可欠であること、オートファジーが神経での異常タンパク質の蓄積を防ぎ神経細胞死を防止するために必要であること、心臓の収縮力を維持するためにオートファジーを伴う代謝回転が不可欠であることなどがある。
大隅博士の貢献は、生体の重要な素過程の細胞自食作用であるオートファジーに関してその分子メカニズムと生理的意義の解明に道を拓いたものとして高く評価されるものである。
以上の理由によって、大隅良典博士に基礎科学部門における第28回(2012)京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです