Yasutomi Nishizuka

第8回(1992)受賞

基礎科学部門

生命科学及び医学(分子生物学・細胞生物学・システム生物学等)

西塚 泰美

/  生化学者

1932 - 2004

神戸大学 医学部 教授

記念講演会

科学における出会い

1992年

11 /11

会場:国立京都国際会館

ワークショップ

「細胞内情報伝達網 -その研究と展望-」

1992年

11 /12

13:10~17:20

会場:国立京都国際会館

業績ダイジェスト

タンパク質リン酸化酵素「Cキナーゼ」の発見とその機能解析による細胞内情報伝達系の解明

タンパク質リン酸化酵素として「Cキナーゼ」の発見とその機能の解析により、新しい細胞内情報伝達系を解明し、その基本概念の構築に大きく寄与するとともに、癌化機構や多彩な生命現象の調節機構を明らかにするなど生命科学の進展に多大な影響を与えた。

[受賞当時の対象分野: 生命科学(分子生物学・細胞生物学・神経生物学)]

贈賞理由

西塚泰美博士は、タンパク質リン酸化酵素「Cキナーゼ」の発見とその機能の解析により、新しい細胞内情報伝達系を解明し、多彩な生命現象の調節機構や癌化機構を明らかにするなど、生命科学の進展に多大な影響を与えた偉大な生化学者である。

西塚博士はカルシウムイオンによって活性化される環状ヌクレオチド非依存性タンパク質リン酸化酵素を1977年に発見し、この酵素を「Cキナーゼ」と命名した。

Cキナーゼについての特に重要な研究成果は、細胞膜に依存するリン脂質が加水分解されて生成するジアシルグリセロールがカルシウムイオンの協調のもとにCキナーゼを活性化させるという、新たなタンパク質リン酸化酵素系が存在することを明らかにしたことである。

Cキナーゼは外部からの情報をカルシウムイオンとリン脂質の代謝を通じて、細胞へ増幅器のように伝える役割をしており、その機能は概念的に全く新しいものであった。

博士はその後、Cキナーゼが組織にほぼ普遍的に存在する細胞内情報伝達系の鍵となるものであることや、発癌剤であるホルボールエステルがCキナーゼを活性化し、Cキナーゼが細胞の増殖と癌化機構に密接に関わることを示した。

さらに1980年代後半には、Cキナーゼ遺伝子のクローニングにも成功し、複数種のCキナーゼが存在することを指摘し、それらが複雑な情報伝達を分担しあって作用していることを明らかにした。

西塚博士の業績は、一つの鍵酵素の発見とそれに関連した研究を通して、生体内における種々の生命反応をつかさどる細胞内情報伝達の機構を大きな体系として確立したもので、これらをまとめた研究論文の引用件数は、1984年、86年には世界でトップになるなど、多くの研究者の関心を集めている。西塚博士の一連の研究が生物学、医学の分野に与えた影響は計り知れない。

以上のような偉大な業績により、西塚泰美博士は第8回京都賞基礎科学部門の受賞者として最もふさわしい。

プロフィール

略歴
1932年
兵庫県芦屋市に生まれる
1957年
京都大学医学部卒業
1962年
京都大学医学系大学院修了 医学博士号取得
1962
京都大学医学部医化学教室助手
1964
京都大学医学部医学教室助教授
1969年
神戸大学医学部生化学教室教授
主な受賞・栄誉
1986年
学士院賞
1988年
アルフレッド賞
1988年
文化勲章
1989年
ラスカー賞
1990年
イギリス王立協会 外国人会員
主な論文・著書
1977年
Studies on a protein kinase and its proenzyme in mammalian tissuse. I. Purification and Characterization of an active enzyme from bovine cerebellum. J. Biol. Chem. 252. (with Takai. Y. et al.) tronic Calculating Machine. J.Sci. Instr.26 (with Renwick, W.), 1977.
1982年
Direct activation of calcium-activated, phospholipid-dependent protein kinase by tumor-promoting phorbol esters. J. Biol. Chem. 257. (with Castagna, M. et al.), 1982.
1984年
The role of protein kinase C in cell surface signal transduction and tumor promotion. Nature. 308, 1984.
1984年
Turnover of inositol phospholipids and signal transduction. Science. 225, 1984.
1986年
Studies and perspectives of protein kinase C. Science. 233, 1986.
1988年
The molecular heterogeneity of protein kinase C and its implications for cellular regulation. Nature. 334, 1988.

プロフィールは受賞時のものです