Yasutomi Nishizuka
第8回(1992)受賞
生命科学及び医学(分子生物学・細胞生物学・システム生物学等)
/ 生化学者
1932 - 2004
神戸大学 医学部 教授
タンパク質リン酸化酵素として「Cキナーゼ」の発見とその機能の解析により、新しい細胞内情報伝達系を解明し、その基本概念の構築に大きく寄与するとともに、癌化機構や多彩な生命現象の調節機構を明らかにするなど生命科学の進展に多大な影響を与えた。
[受賞当時の対象分野: 生命科学(分子生物学・細胞生物学・神経生物学)]
西塚泰美博士は、タンパク質リン酸化酵素「Cキナーゼ」の発見とその機能の解析により、新しい細胞内情報伝達系を解明し、多彩な生命現象の調節機構や癌化機構を明らかにするなど、生命科学の進展に多大な影響を与えた偉大な生化学者である。
西塚博士はカルシウムイオンによって活性化される環状ヌクレオチド非依存性タンパク質リン酸化酵素を1977年に発見し、この酵素を「Cキナーゼ」と命名した。
Cキナーゼについての特に重要な研究成果は、細胞膜に依存するリン脂質が加水分解されて生成するジアシルグリセロールがカルシウムイオンの協調のもとにCキナーゼを活性化させるという、新たなタンパク質リン酸化酵素系が存在することを明らかにしたことである。
Cキナーゼは外部からの情報をカルシウムイオンとリン脂質の代謝を通じて、細胞へ増幅器のように伝える役割をしており、その機能は概念的に全く新しいものであった。
博士はその後、Cキナーゼが組織にほぼ普遍的に存在する細胞内情報伝達系の鍵となるものであることや、発癌剤であるホルボールエステルがCキナーゼを活性化し、Cキナーゼが細胞の増殖と癌化機構に密接に関わることを示した。
さらに1980年代後半には、Cキナーゼ遺伝子のクローニングにも成功し、複数種のCキナーゼが存在することを指摘し、それらが複雑な情報伝達を分担しあって作用していることを明らかにした。
西塚博士の業績は、一つの鍵酵素の発見とそれに関連した研究を通して、生体内における種々の生命反応をつかさどる細胞内情報伝達の機構を大きな体系として確立したもので、これらをまとめた研究論文の引用件数は、1984年、86年には世界でトップになるなど、多くの研究者の関心を集めている。西塚博士の一連の研究が生物学、医学の分野に与えた影響は計り知れない。
以上のような偉大な業績により、西塚泰美博士は第8回京都賞基礎科学部門の受賞者として最もふさわしい。
プロフィールは受賞時のものです