W. David Kingery
第15回(1999)受賞
材料科学
/ セラミック材料科学者
1926 - 2000
アリゾナ大学 理事教授
これまで経験則を頼りにしていたセラミックスの技術を、自身の研究成果も含めて理論的に体系づけ、セラミックスの材料科学としての確立に根幹的な貢献をし、今日のこの分野の発展に大きく寄与している。
キンガリー博士は、これまで経験則に頼り、科学的な取り扱いが遅れていたセラミックスに、化学的、物理的考え方を取り入れ、「セラミックス物理」という学問体系を構築することにより、セラミックスの材料科学としての確立に根幹的な貢献をし、この分野の発展に大きく寄与した。
博士は、セラミックス製造の最も基本的な素過程である「焼結」について系統立った研究を行い、種々のモデル系の焼結速度の解析により、焼結機構が粘性流動、蒸発・凝縮、内部拡散などの機構に同定できることを実証した。特に、セラミックス工業の中で最も重要な液相焼結が、液相による粒子のぬれ、粒子の再配列、溶解-析出の3段階で進行することを説明し、その本質を初めて理論的に解明するとともに、これら一連の研究を通じて、セラミックスの焼結機構、焼結体の微細構造、物性を支配する重要因子は、成分イオンの拡散係数であることを明らかにした。更に、博士は焼結の終点である気孔の除去が気孔と粒界の相互作用により進行すると洞察し、焼結に関する初期から終期にわたるすべての過程について、統一的理解の指針を与えたのである。それらの理論は、今日のセラミックス製造の基本的指針となっている。
また、博士はイオン電導性の研究において、酸化物中の酸素イオンの拡散係数を測定することにより、酸素イオンや格子欠陥などの挙動を明らかにし、拡散現象の解明についても重要な貢献をした。さらに、イオン結晶の粒界の特性を洞察した新しい概念を提唱し、多彩なセラミックスの応用展開の基礎的根拠を提供した。このようなセラミックス材料科学に関する研究成果は、エレクトロニクセラミックス、エンジニアリングセラミックス、ストラクチャーセラミックスなど、様々なセラミックスの製造過程に適用され、重要な工業製品群を生み出すことになった。
博士は、これらの成果を「Introduction to Ceramics」として世界に示した。この著書は、今日でもセラミックス材料科学のバイブルといわれており、博士の材料科学への貢献を象徴するもので、それ故、博士は「現代セラミックスの父」と呼ばれている。
このように、キンガリー博士はセラミックスの学問を科学として体系化するとともに、多くの著作や研究指導を通じて、世界的な規模でセラミックス材料科学の発展を先導する大きな功績をあげた。よって、キンガリー博士に先端技術部門における1999年京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです