Tasuku Honjo
第32回(2016)受賞
生命科学及び医学(分子生物学・細胞生物学・システム生物学等)
/ 医学者
1942 -
京都大学 名誉教授
クラススイッチ組換え機構とそこに働くAIDを同定して抗体の機能獲得メカニズムを解明し、PD-1/PD-L1分子の同定と機能解析によって新しいがん免疫療法に道を拓いた。その成果は広く医学・生命科学に影響を及ぼすとともに、医療へと展開されて人類の福祉に多大な貢献を果たしている。
[受賞当時の対象分野: 生命科学(分子生物学・細胞生物学・神経生物学)]
我々の体で生体防衛に働く抗体は骨髄に由来するB細胞で作られる。B細胞の発生過程で、抗体遺伝子は可変部領域の遺伝子断片の組換えを受け、様々な抗原に結合する多様性を身に付ける。その後リンパ組織でB細胞が抗原に曝され活性化されると、可変部領域に体細胞超突然変異(SHM)が起こり抗原結合の親和性が増すとともに、IgM、IgG、IgE、IgAなどクラスと呼ばれる異なった定常領域を持ち、異なった生物活性を発揮する抗体が産生される。しかし、異なったクラスの抗体が産生される機構もSHMの機構も不明であった。
本庶佑博士は、1978年に前者に関して抗体の重鎖遺伝子が部分的に欠損して異なったクラスの抗体遺伝子を作り出すクラススイッチ組換え(CSR)モデルを提唱し、その後多くの論文でこれを実証した。ついで、1999年に活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)を発見し、引き続く研究で、これがCSRのみならず、SHMにも必須の酵素であることを明らかにした。これにより、免疫の基本原理の一つである抗体の機能性獲得のメカニズムが明らかになった。
また、本庶博士は、CSRを誘導するIL-4、発生に重要な転写因子RBP-J kappa、造血幹細胞維持に重要なSDF-1など、免疫に関する多くの重要な分子を発見した。
その一つ、PD-1は、欠損により自己免疫疾患が惹起されること、リガンドであるPD-L1との結合によりT細胞の活性化が抑制されることから、免疫反応の負の調節因子であることが明らかになった。さらに本庶博士らは、抗PD-L1抗体を担がんマウスに投与してPD-1とPD-L1の結合を阻害するとマウスの抗がん活性が著しく増強されることを示し、PD-1シグナルの遮断が有効ながんの免疫治療となりうる可能性を世界で初めて提示した。この成果をもとに開発されたPD-1に対する抗体薬は、幅広いがん種で奏功例が認められ、すでにメラノーマと肺がんの治療に使用されている。抗PD-1抗体によるがん免疫療法は、副作用が少なく、幅広いがんに持続的な効果があるという優れた特性を有している。
以上、本庶博士の主たる貢献は、CSR機構とそこに働くAIDを同定してSHMを含む抗体の機能獲得メカニズムを解明したこと、PD-1/PD-L1分子の同定と機能解析によって新しいがん免疫療法に道を拓いたことであり、基礎生命科学と人類への福祉の両面から高く評価される。
以上の理由によって、本庶佑博士に基礎科学部門における第32回(2016)京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです