Takashi Mimura
第33回(2017)受賞
エレクトロニクス
/ 半導体工学者
1944 -
株式会社富士通研究所 名誉フェロー / 情報通信研究機構 未来ICT研究所 統括特別研究員
2種類の半導体を積層化した新構造の「高電子移動度トランジスタ(HEMT)」を発明し、伝導層内の電子移動度が高くなるため優れた高周波特性を持つことを示した。この発明により、情報通信技術の発展に大きく貢献するとともに、極薄伝導層内の電子の物性研究の進展にも寄与した。
三村髙志博士は、1979年、特定の半導体の上に異なる半導体を載せた新構造のトランジスタを発明し、高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor:HEMT)と命名した。二種類の半導体が接した系では、電子を引き寄せる力(電子親和力)が両者で異なるため、電子は親和力が大きな半導体に流れ込む。三村博士は、第一の半導体上に、親和力の弱い第二の半導体を載せ、そこに正の不純物を入れると、電子は第一と第二の半導体とが接する領域に蓄積され、界面に沿って優れた移動特性(高移動度)を示すため、電子の量を制御電極で増減させれば、優れたトランジスタとなることを初めて示した。また、三村博士は、HEMTが高い周波数域まで優れた特性を示すことを実証し、電波望遠鏡や衛星放送への応用を開拓するなど、情報通信技術の進展に大きく寄与した。さらに、HEMT内の電子は界面に沿った2次元空間でのみ動き、不純物の影響を受けにくいため、2次元での電子物性の研究に広く使われており、固体物理学の進展にも貢献した。
HEMT発明の約10年前、Esakiらは、2種の半導体超薄膜を互に重ねた超格子の概念を提示したが、その後、関連の研究が進み、超薄膜に閉じこめられた電子の特異な物性が明らかにされた。また、半導体のAlGaAs膜とGaAs膜からなる超格子で、正の不純物をAlGaAsに入れると、電子はGaAs膜内に蓄積し、不純物から隔たれるため、高い移動度を示すことが1978年に発見された。三村博士はこれらの研究に触発され、不純物を含んだAlGaAs膜をGaAs上に堆積すれば、界面部に高移動度の電子を蓄積できるとの着想に至り、HEMTを発明したのである。
HEMTは、高周波での増幅特性と雑音特性に優れていることが明らかにされたため、衛星放送用受信機、携帯電話基地局、自動車用ミリ波レーダーなど、社会で広く使われている。なお、当初のHEMTはAlGaAsとGaAsから作られたが、その後、InAlAsとInGaAsの組み合わせなども活用され、用途に合わせ多様化が進んでいる。また、AlGaNとGaNを用いたHEMTの開発も進み、高出力・高速素子として携帯電話基地局に広く使われ、優れた電力制御素子としても活用され始めている。
このように、三村博士は、HEMTの発明と応用展開の推進を通じて、情報通信技術の進展に極めて大きな貢献をなすとともに、低次元電子の物理学の発展にも寄与した。
以上の理由により、三村髙志博士に先端技術部門における第33 回(2017)京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです