Sydney Brenner

第6回(1990)受賞

先端技術部門

バイオテクノロジー及びメディカルテクノロジー

シドニー・ブレンナー

/  分子生物学者

1927 - 2019

MRC分子遺伝学ユニット 所長

記念講演会

遺伝子研究の冒険

1990年

10 /24

会場:国立京都国際会館

ワークショップ

遺伝情報

1990年

10 /25

13:00~17:25

会場:国立京都国際会館

業績ダイジェスト

メッセンジャーRNAの発見及び線虫類を用いた発生生物学の実験システム開発による分子生物学発展への先駆的貢献

分子生物学の黎明期に多方面にわたる活発な研究を展開し、今日の遺伝子工学の基礎となる重要な発見として、メッセンジャーRNAの存在を証明し、また遺伝子暗号、特に終結暗号を解明するとともに、線虫類の実験系を開発して、細胞分裂のタイミングと位置が遺伝的に完全にプログラムされていることを明らかにするなど、分子生物学の確立・発展に先駆的貢献をした。

[受賞当時の対象分野: バイオテクノロジー(遺伝子、細胞・発生・癌、生体機能など)]

贈賞理由

ブレンナー博士は、1960年前後の分子生物学の黎明期に多方面にわたる活発な研究を展開したが、特にDNAの遺伝情報が蛋白の構造へ伝達される中間にメッセンジャーRNAが存在することを証明した業績は有名である。また、アミノ酸と遺伝暗号の関係について研究し、DNAあるいはRNAの3つのヌクレオチド(トリプレット)によって、ひとつのアミノ酸の情報が写し取られることを主張した。さらに、そのようなトリプレットの中のある組み合わせ、たとえばウラシル、アデニン、グアニンという組み合わせは、そこで読み取りが終わるナンセンス・コドンと呼ばれる終止を示す暗号であることを明らかにした。これらの研究業績は、今日の分子生物学、ひいては遺伝子工学の基礎をなすもので、その貢献は国際的にも高い評価を受けている。

その後ブレンナー博士は、多細胞生物における遺伝情報と発生、分化の過程を調べるモデルとして、構成細胞数が少なく、遺伝解析、生化学分析の容易な線虫(C.elegans)の実験系を開発した。この研究では線虫の発生・分化過程を細胞レベルで完全に記述し、細胞分裂のタイミングと位置が遺伝学的に完全にプログラムされていることを明らかにする一方、大部分のDNAをクローニングすることにも成功した。

現在、ブレンナー博士の先導的研究に刺激されて、国際的に多くの研究室が相互に連帯しつつ、C.elegansの解剖学、遺伝学、発生学、行動などについて活発な研究を総合的に進展させている。

このように、ブレンナー博士は卓越した識見と不断の努力で分子生物学の新しい研究分野を創造し、今日の遺伝子工学の基礎を作るうえに多大な貢献をするとともに、長期にわたって世界の指導者としてのこの分野の発展に大きい役割を果たされたので、京都賞先端技術部門で受賞するに最もふさわしいといえる。

プロフィール

略歴
1927年
南アフリカ連邦、ジャーミストンに生まれる
1947年
南アフリカ連邦、ウィトウォータースランド大学 卒業
1954年
イギリス、オックスフォード大学で博士号取得
1957年
イギリス、ケンブリッジ医学研究機関 分子生物学研究所 研究員
1986年
同研究機関 分子遺伝学ユニット所長
主な受賞・栄誉
1965年
英国王立協会員
1970年
ドイツ科学アカデミー グレゴール・メンデル・メダル
1971年
ニューヨーク アルバート・ラスカー賞
1974年
英国王立協会 ロイヤル・メダル
1977年
米国科学アカデミー 外国人会員
1980年
ヨーロッパ生化学連合 クレブス・メダル
1986年
英国王立協会 クローニアン・メダル
2002年
ノーベル生理学・医学賞
主な論文・著書
1961年
『遺伝子から、リボゾームでの蛋白合成への情報を伝達する不安定な中間体について』 Nature 190巻(F. Jacob他 共著)
1961年
『蛋白の遺伝暗号の一般的性質』Nature 192巻(F. H. C. Crick他 共著)
1965年
『遺伝暗号:終止暗号とそのサプレッション』Nature 206巻(Q. O. W. Stretton他 共著)
1974年
『C. elegansのDNA』Genetics 77巻(J. E Sulston共著)
1985年
『C. elegansにおける触覚の神経回路網』J. Neurosci. 5巻(M. Chalfie他 共著)

プロフィールは受賞時のものです