Ryuzo Yanagimachi
第38回(2023)受賞
バイオテクノロジー及びメディカルテクノロジー
/ 生殖生物学者
1928 - 2023
ハワイ大学 名誉教授
2023年
11 /11 土
13:00〜16:00
会場:国立京都国際会館
定員:1,500人(先着順)
入場無料
哺乳動物において、体外受精の方法を確立して受精現象の詳細な解析を進め、さらに精子を卵細胞質に直接顕微注入する卵細胞質内精子注入法の開発と技術革新を行って顕微授精技術を確立し、現代社会において重要な生殖補助技術の展開に基礎研究と技術開発の両面で大きく貢献した。
柳町隆造は、受精現象の基礎的な研究を進め、さまざまな哺乳動物の受精過程を詳細に解析し、受精が成立するための条件を導き出して、人工授精による畜産業やヒトの生殖補助医療技術(ART: Assisted Reproductive Technology)の発展に大きく貢献した。中でも、哺乳動物の体外受精が可能であることを実証したこと、顕微鏡下で精子を卵細胞質に直接注入する顕微授精技術、卵細胞質内精子注入法(ICSI: Intracytoplasmic Sperm Injection)を開発し、技術革新を重ねてその効率を改善したことは特筆され、柳町の成し遂げた基礎研究と技術開発は、産科医療と少子化に向かう現代社会に対する大きな貢献である。
柳町が研究を開始する以前もいろいろな哺乳動物の体外受精の報告はあったものの、実践的な体外受精の方法は存在しなかった。柳町は1963年に培養液中でのハムスターの受精に成功して、再現可能な哺乳類の体外受精を確立した(1)。この方法を用いて受精現象の解析を進め、精子の受精能獲得や先体反応、卵子の透明帯反応などの受精過程の理解を深めた(2–6)。こうした哺乳類の受精メカニズム研究は、ヒトにおける体外受精の成功にも大きく貢献した。
柳町はさらに、精子を卵細胞質に顕微注入することによって受精させる、ICSIを確立した(7, 8)。精子を顕微注入する際には、マイクロインジェクタで卵細胞の透明帯と細胞膜を突き抜く必要があるが、通常の手法ではこの過程は困難であった。柳町は、Piezoマニピュレータを用いることで、この課題を克服できることを発見し、Piezo-ICSIの基盤技術を開発した(9)。これらの基盤に立って、Piezo-ICSIは高い受精率と着床率が達成されて、従来の体外受精法では受精が困難であった男性不妊症に対する生殖補助医療技術として定着し、不妊症に悩む人々に大きな福音をもたらしている。また、柳町は、凍結乾燥処理した精子でもICSIによって体外受精を可能とする技術も開発し、精子を長期保存できることを示してARTにおける新たな選択肢を提供した(10, 11)。
そして、柳町らのチームは、体細胞核移植によるクローンマウスの作製にも成功した(12)。このクローンマウスは、前年に開発されたクローン羊の場合と異なり、数世代にわたって子孫を作ることができ(12)、クローン動物研究の発展に大きな貢献をしている。
このように、柳町の受精現象の基礎的な研究と生殖補助技術の開発は、ヒト生殖医療のみならず、畜産業や希少動物種の保護にも応用されており、柳町は現代社会の発展に大きく貢献したと結論される。
以上の理由によって、柳町隆造に先端技術部門における第38回(2023)京都賞を贈呈する。
参考文献
(1) Yanagimachi R & Chang MC (1963) Fertilization of Hamster Eggs in vitro. Nature 200: 281–282.
(2) Barros C & Yanagimachi R (1971) Induction of Zona Reaction in Golden Hamster Eggs by Cortical Granule Material. Nature 233: 268–269.
(3) Nicolson GL & Yanagimachi R (1972) Terminal Saccharides on Sperm Plasma Membranes: Identification by Specific Agglutinins. Science 177: 276–279.
(4) Oikawa T, Yanagimachi R, & Nicolson GL (1973) Wheat Germ Agglutinin blocks Mammalian Fertilization. Nature 241: 256–259.
(5) Nicolson GL & Yanagimachi R (1974) Mobility and the Restriction of Mobility of Plasma Membrane Lectin-Binding Components. Science 184: 1294–1296.
(6) Steinhardt RA, Epel D, Carroll EJ, Jr., & Yanagimachi R (1974) Is calcium ionophore a universal activator for unfertilised eggs? Nature 252: 41–43.
(7) Uehara T & Yanagimachi R (1976) Microsurgical Injection of Spermatozoa into Hamster Eggs with Subsequent Transformation of Sperm Nuclei into Male Pronuclei. Biol Reprod 15: 467–470.
(8) Uehara T & Yanagimachi R (1977) Behavior of Nuclei of Testicular, Caput and Cauda Epididymal Spermatozoa Injected into Hamster Eggs. Biol Reprod 16: 315–321.
(9) Kimura Y & Yanagimachi R (1995) Intracytoplasmic Sperm Injection in the Mouse. Biol Reprod 52: 709–720.
(10) Wakayama T & Yanagimachi R (1998) Development of normal mice from oocytes injected with freeze-dried spermatozoa. Nat Biotechnol 16: 639–641.
(11) Perry AC et al. (1999) Mammalian Transgenesis by Intracytoplasmic Sperm Injection. Science 284: 1180–1183.
(12) Wakayama T et al. (2000) Cloning of mice to six generations. Nature 407: 318–319.
プロフィールは受賞時のものです