Rudolf Emil Kalman
第1回(1985)受賞
エレクトロニクス
/ 制御工学者
1930 - 2016
スイス連邦工科大学(ETH) 教授
現代制御理論およびシステム理論の創始者。1960年代初頭に確立した「カルマン理論」により、制御工学に根本的な変革をもたらし、その後の現代制御理論の飛躍的な発展の基礎を築いた。
[受賞当時の対象分野: エレクトロニクス、電気通信技術、レーザー、制御工学、コンピュータ、情報工学、人工知能]
カルマン教授は、1960年代初頭における制御理論の変革期に、「現代制御理論」の主な骨組みを作りあげた。それまでの制御理論は回路理論の延長上にある周波数応答法が主であり、設計は線図上の作図によるものであった。これに対し、カルマン教授が定式化したシステムの状態空間による表現法は、計算機時代に適合した方法で、論理的に明快であり、数学的思考および展開が容易である。
カルマン教授はこの状態空間によるシステムの記述法を基に、制御理論にとって基本的概念となった可制御性、可観測性、およびその双対性を提案し、システムの正準構造を明らかにした。これらは制御の分野にとって従来とまったく異なるあたらしい視点であった。 教授は概念の提案だけでなく、これを基に最適なレギュレータ理論およびその双対である「カルマンフィルタ」の理論を確立し、新しい視点のもとでの制御系を構成するための基礎を与え、さらに制御系の安定論の分野についても貢献した。カルマン教授の作りあげた枠組みのもとで、制御理論はめざましい発展をとげ、多くの成果が生み出されたが、これらは計算機の発展とあいまって、ますます大規模かつ複雑化しつつある現代の工学システムの高度な制御に応用され、着実な業績をあげている。
カルマン教授の業績は制御の隣接領域にも大きな影響を与えた。なかでも教授の名を冠した「カルマンフィルタ」は、ヴィーナー以来の古典的な時系列の予測理論に根本的な変革をもたらし、ディジタル信号処理のもっとも有力な手段の一つとして広く用いられている。また、すでに30年近く前に、サンプル値制御系の入出力応答に現在「カオス」とよばれている現象を発見し、その重要性を認識していたことは、先駆的な洞察としてカオス研究者に高く評価されている。
カルマン教授はその後、制御理論を高次レベルで包摂する「数学的システム理論」の構築に進み、システムの代数的表現、実現理論、部分実現理論等、測定データからシステムのモデルをえるための手順についての理論を発表している。これらは情報処理の基礎になる理論であり、制御、信号処理、回路理論、通信などの諸分野にまたがる新しい学問領域を誕生させる原動力となっている。
カルマン教授は現在も、ノイジー・リアライゼーションの研究を進めつつあり、統計学の近代化に努力している。
以上のように、カルマン教授の偉大な創造力と洞察力、広大な学識は、工学者としては稀有のものであり、その業績の現代技術に与えたインパクトと大きさには、はかりしれないものがある。
プロフィールは受賞時のものです