Roy Lichtenstein
第11回(1995)受賞
美術(絵画・彫刻・工芸・建築・写真・デザイン等)
/ 造形芸術家
1923 - 1997
1960年代にポップアートの旗手として登場して以来、30年以上にわたって、独自の表現語法により、芸術の本質とその社会的役割を鋭く問いただす優れた作品を数多く生み出し、現代美術に大きな影響を与えた。
[受賞当時の部門 / 対象分野: 精神科学・表現芸術部門 / 美術(絵画・彫刻)]
ロイ・リキテンスタイン氏は1960年代にポップアートの旗手として登場して以来、30年以上にわたって独自の表現語法により、芸術の本質とその社会的役割を鋭く問いただす優れた作品を数多く生み出し、現代美術に多大な影響を与え続けている。
リキテンスタイン氏は、コミック・ストリップという安物の通俗漫画雑誌の一部分や、スーパーマーケットの宣伝チラシのイメージを拡大するという卓抜な発想の作品群によって一躍注目を集め、ポップアートの最も有力な画家の一人に数えられるようになった。事実、ミッキーマウスという大衆イメージを利用したその最初の作品は、当時の芸術界に大きな刺激を与え、今では歴史的意味を持つものとして位置づけられている。これら初期のポップ作品は、誰もがよく知っている見慣れたイメージをあえて取り上げ、拡大、強調することによって、大衆性と無名性を特色とするアメリカの高度消費社会の本質を鋭くえぐり出して見せたという点で、社会的にも重要な意義を有するものと言わなければならない。社会の姿を凝縮した形で示すこと、いわば時代を映す鏡になることは、芸術の基本的役割の一つなのである。
それと同時に、明るい魅力に満ちたこれらの作品によって、氏は通俗的なイメージでさえ優れた芸術作品に変貌し得ることを証明し、造形表現の力を明らかにしてみせた。実際、拡大された網点やハッチング、赤、黄、青、黒、白、緑の6色に限定された色彩配合、力強い単純な輪郭線等は紛れもない氏独自の造形的表現語法として、その作品を特徴づけているのである。その結果、美術は難しいものでも、まして一握りの人たちだけのものでもなくあらゆる人々に美術を享受する機会を提供するものになった。
それ以後も、モネ、ピカソ、マティスなどそれぞれに異なった様式の過去、または同時代の巨匠たちの作品の再解釈、「ブラッシュストローク」「鏡」のような視覚芸術の本質を問いただすシリーズ、あるいは建築モチーフや装飾パターンの絵画化など、いずれも先鋭な問題提起を含んだ作品を次々に発表した。これらの作品に用いられている題材は、広く知られたものばかりであるが、氏の作品世界においては、まったく新しい意味と表現を与えられている。さらに氏は、その平易で明快な造形表現によって、絵画のみならず、彫刻や壁画装飾をも手掛けている。その特徴は絵画から抜け出したような平面性にあるが、豊かで創意にあふれ、あくまでも明るく力強い表現により、人々に大きな喜びを与えている。
リキテンスタイン氏は、ポップ・アートという極めて重要な20世紀美術運動を通じて、美術を誰にでも親しめるものとしてみせるとともに、今も芸術界に大きな刺激と活力を与え続けており、第11回京都賞精神科学・表現芸術部門美術分野の受賞者として最も相応しい。
プロフィールは受賞時のものです