Robert Samuel Langer
第30回(2014)受賞
バイオテクノロジー及びメディカルテクノロジー
/ 生体医工学者
1948 -
マサチューセッツ工科大学 インスティテュート・プロフェッサー
生体吸収性ポリマーを応用して、細胞の「足場」を構築することにより、様々な臓器の形成に成功して、再生医療の実現に不可欠な組織工学を創出した。また、タンパク質や核酸など高分子の徐放化の技術を開発し、薬物送達システム技術の実用化を積極的に推進し、医工学融合領域を牽引している。
ロバート・サミュエル・ランガー博士は工学、医学、薬学にまたがる融合領域において、世界的パイオニアとして基礎研究で輝かしい成果を挙げるとともに、それらの研究成果を医療に応用し、実用化を積極的に推進した。博士は化学工学・材料科学を基盤として、2つの革新的成果を成し遂げた。
1つは組織工学分野の創出と確立である。ランガー博士は再生医療の実現に不可欠な「足場」の概念を世界で初めて提唱した。細胞が組織化されるにつれて吸収される生体吸収性ポリ乳酸を応用して、動物モデルで骨、肝臓、筋肉などの形成に成功している。ヒトの組織形成も実現しており、損傷臓器の修復など新しい治療法開発に向けた研究が進展している。
もう1つの革新は、タンパク質の薬物送達システム(DDS:Drug Delivery System)技術の展開とその医療への応用である。ランガー博士は、世界で初めてタンパク質でも生理活性を有した状態で安定的に長期間放出させる徐放化技術を開発し、この技術によってタンパク質、核酸などの高分子のDDS研究が進展し、再生医療への応用展開も始まっている。手術で除去しきれなかった脳腫瘍に対する脳内留置徐放性製剤、狭心症に対する薬剤溶出性ステント、前立腺がんのホルモン治療薬など、博士の研究から派生した医療技術や医薬品は広く患者の治療に用いられている。また、体外から超音波などの刺激あるいは体内の化学的刺激に対応して薬物の放出量を調節できる放出制御DDS技術や、標的部位で薬剤を徐放するように設計された生分解性ポリマー製剤の開発に成功している。これらの研究成果の実用化を目指して、遠隔操作で薬剤放出可能な体内埋め込み型マイクロチップや、がん細胞を標的とした抗がん剤封入ナノ粒子治療薬などが臨床試験中である。
このように、ランガー博士は再生医療とDDSにおいて核心となる医工学融合領域を創成し、それを疾患治療へ応用する技術を確立し、さらには医療応用へ展開した創始者である。その研究成果は、膨大な数の学術論文、総説、著書、特許などに結実している。
さらに自らベンチャー企業を作り、また多くのバイオ企業の技術顧問を務めている。ランガー博士の研究室には、毎年各国から多くの研究者が訪れ、優れた研究成果を挙げて帰国していく。このような世界的な人的および学術的交流が、ランガー博士の創成した医工学技術の世界展開を加速している。
以上の理由によって、ロバート・サミュエル・ランガー博士に先端技術部門における第30回(2014)京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです
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