Robert Samuel Langer

第30回(2014)受賞

先端技術部門

バイオテクノロジー及びメディカルテクノロジー

ロバート・サミュエル・ランガー

/  生体医工学者

1948 -

マサチューセッツ工科大学 インスティテュート・プロフェッサー

記念講演会

ある若き化学工学者の夢と奮闘

2014年

11 /11

会場:国立京都国際会館

ワークショップ

バイオマテリアル研究の最前線

2014年

11 /12

10:00~16:00

会場:国立京都国際会館

業績ダイジェスト

組織工学及び薬物送達システム技術の創出

生体吸収性ポリマーを応用して、細胞の「足場」を構築することにより、様々な臓器の形成に成功して、再生医療の実現に不可欠な組織工学を創出した。また、タンパク質や核酸など高分子の徐放化の技術を開発し、薬物送達システム技術の実用化を積極的に推進し、医工学融合領域を牽引している。

贈賞理由

ロバート・サミュエル・ランガー博士は工学、医学、薬学にまたがる融合領域において、世界的パイオニアとして基礎研究で輝かしい成果を挙げるとともに、それらの研究成果を医療に応用し、実用化を積極的に推進した。博士は化学工学・材料科学を基盤として、2つの革新的成果を成し遂げた。

1つは組織工学分野の創出と確立である。ランガー博士は再生医療の実現に不可欠な「足場」の概念を世界で初めて提唱した。細胞が組織化されるにつれて吸収される生体吸収性ポリ乳酸を応用して、動物モデルで骨、肝臓、筋肉などの形成に成功している。ヒトの組織形成も実現しており、損傷臓器の修復など新しい治療法開発に向けた研究が進展している。

もう1つの革新は、タンパク質の薬物送達システム(DDS:Drug Delivery System)技術の展開とその医療への応用である。ランガー博士は、世界で初めてタンパク質でも生理活性を有した状態で安定的に長期間放出させる徐放化技術を開発し、この技術によってタンパク質、核酸などの高分子のDDS研究が進展し、再生医療への応用展開も始まっている。手術で除去しきれなかった脳腫瘍に対する脳内留置徐放性製剤、狭心症に対する薬剤溶出性ステント、前立腺がんのホルモン治療薬など、博士の研究から派生した医療技術や医薬品は広く患者の治療に用いられている。また、体外から超音波などの刺激あるいは体内の化学的刺激に対応して薬物の放出量を調節できる放出制御DDS技術や、標的部位で薬剤を徐放するように設計された生分解性ポリマー製剤の開発に成功している。これらの研究成果の実用化を目指して、遠隔操作で薬剤放出可能な体内埋め込み型マイクロチップや、がん細胞を標的とした抗がん剤封入ナノ粒子治療薬などが臨床試験中である。

このように、ランガー博士は再生医療とDDSにおいて核心となる医工学融合領域を創成し、それを疾患治療へ応用する技術を確立し、さらには医療応用へ展開した創始者である。その研究成果は、膨大な数の学術論文、総説、著書、特許などに結実している。

さらに自らベンチャー企業を作り、また多くのバイオ企業の技術顧問を務めている。ランガー博士の研究室には、毎年各国から多くの研究者が訪れ、優れた研究成果を挙げて帰国していく。このような世界的な人的および学術的交流が、ランガー博士の創成した医工学技術の世界展開を加速している。

以上の理由によって、ロバート・サミュエル・ランガー博士に先端技術部門における第30回(2014)京都賞を贈呈する。

プロフィール

略歴
1948年
米国ニューヨーク州オールバニ生まれ
1974年
マサチューセッツ工科大学(MIT)博士号(理学)
1974年
ハーバード・メディカル・スクール(HMS) ボストン小児病院 研究員
1977年
MIT 栄養食品科学科 客員助教
1978年
MIT 栄養食品科学科 助教
1981年
MIT 栄養食品科学科/ハーバード・MIT健康科学技術部門(HST) 准教授
1985年
MIT 応用生物科学科/HST 教授
1988年
MIT 化学工学科/HST ケネス・J・ゲルメシャウセン教授
1999年
HMS ボストン小児病院 上級講師
2005年
MIT インスティテュート・プロフェッサー
2009年
MIT デビッド・H・コーク・インスティテュート・プロフェッサー
主な受賞・栄誉
1996年
ガードナー国際賞
2002年
チャールズ・スターク・ドレイパー賞
2005年
オールバニ・メディカルセンター医学・生物医学研究賞
2006年
米国国家科学賞
2008年
ミレニアム技術賞
2011年
米国国家技術賞
2013年
ウルフ賞化学部門
2014年
ブレイクスルー賞生命科学部門
会員
米国医学院、米国科学アカデミー、米国芸術科学アカデミー、米国工学アカデミー、米国発明家アカデミー
主な論文
1976年
Polymers for the Sustained Release of Proteins and Other Macromolecules (R. Langer and J. Folkman), Nature 263: 797-800, 1976.
1993年
Neocartilage Formation in vitro and in vivo Using Cells Cultured on Synthetic Biodegradable Polymers (L. E. Freed et al.), J. Biomed. Mater. Res. 27: 11-23, 1993.
1993年
Tissue Engineering (R. Langer and J. P. Vacanti), Science 260: 920-926, 1993.
1994年
Biodegradable Long-Circulating Polymeric Nanospheres (R. Gref et al.), Science 263: 1600-1603, 1994.
1998年
Drug Delivery and Targeting, Nature 392: 5-10, 1998 .

プロフィールは受賞時のものです

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