Renzo Piano
第6回(1990)受賞
美術(絵画・彫刻・工芸・建築・写真・デザイン等)
/ 建築家
1937 -
現代のハイテク建築の旗手のひとりとして、高度に工業化された部材による建築表現を追究し、パリのポンピドゥ・センターなど多くの作品を通じて、多様化した建築理念の混乱の中にあって、一貫して技術をヒューマンな表現に高め、新しい可能性を切り拓いた。現代建築家の中で、最も注目すべき作品を作り続け、今後の建築のあり方に大きな示唆を与えている。
[受賞当時の部門 / 対象分野: 精神科学・表現芸術部門 / 美術―造形芸術(絵画・彫刻・建築)]
レンゾ・ピアノ氏は、近代建築の機能主義的な分析と機能の表現の延長上にありながら、古典的な全体表現を抜け出し、20世紀末から21世紀に向かっての建築に新しい可能性を切り拓いた。ピアノ氏は現代のハイテク建築の旗手のひとりであるが、彼の建築の特徴は理詰めの機械的建築にあるのではなく、技術の表現を軽快な美的感動をさそう形態にまで高めるところにある。
近代建築の成立を1920年代から1930年代に認めることは定説となっているが、そこで確立された建築理念が定着し、現実の社会の中で本格的に建築されるようになるのは1950年代から60年代のことである。レンゾ・ピアノ氏はそうした近代建築実現の時代のさらに後に登場した世代に属しており、多様化した建築理念の混乱の中にあって、一貫して技術をヒューマンな表現に高めた建築を追求してきた。
Architecture(建築)とは、ARCHI(原型)とTECHNE(技術)が結合した言葉であり、テクネ、テクニック、テクノロジーと、時代とともに広義の技術が変化してはきたが、レンゾ・ピアノ氏はその根源に遡及して技術と建築の関係を再考するところから出発し、テクノロジーの独走に任せたりはせず、その術(テクネ)を扱う建築家として、ルネサンス以来のイタリアの伝統を踏まえた、細部の判断を下している。彼の軌跡は建築の可変性を最大限に作品中に取り込もうとするものであり、それは今後の建築の在り方に大きな示唆を与えるものである。
ピアノ氏は、パリ・ポンピドゥ・センター、IBM移動展パヴィリオン、米国ヒューストンのメニル・コレクション美術館などの設計者として知られているが、このほかにも自然との調和や文化を中心テーマに取り入れた地域再生プロジェクトでの設計でも高い評価を得ている。
現代に建築家は数多い中で、ピアノ氏の建築は、すでに20世紀後半の建築史上にはっきりと足跡を印している。今日においても最も人間的と呼びうる注目すべき建築をつくり続けているピアノ氏は、以上のような業績に照らして、京都賞、精神科学・表現芸術部門の受賞者として最もふさわしいといえる。
プロフィールは受賞時のものです