Rashid Alievich Sunyaev
第27回(2011)受賞
地球科学・宇宙科学
/ 宇宙物理学者
1943 -
マックス・プランク宇宙物理学研究所 所長/ロシア科学アカデミー 宇宙科学研究所 チーフサイエンティスト
宇宙背景放射の温度揺らぎに刻印された初期宇宙の音波振動や宇宙背景放射の銀河団中の熱い電子ガスによる散乱の理論的研究によって、現代の観測的宇宙論へ大きな影響を与えるとともに、高密度天体への物質降着とエネルギー放出機構の理論的研究や国際的観測プロジェクトの主導により高エネルギー天文学へも多大な貢献をしている。
ラシッド・アリエヴィッチ・スニヤエフ博士の第一の貢献は、近年、精密科学のレベルに達した観測的宇宙論を支える理論への貢献である。1970年、スニヤエフ博士はヤーコフ・ゼルドヴィッチ博士との論文で、熱い宇宙初期の水素再結合時に到る物理過程を考察し、原始的な密度揺らぎによる音波振動の存在が宇宙背景放射の強度揺らぎとして観測されることを明らかにした。
宇宙の膨張で温度が低下し、陽子と電子は水素原子に結合し、熱放射は物質との作用が切れて宇宙は晴れ上がり、現在、当時の熱放射は宇宙背景放射として観測されている。したがって、この宇宙背景放射には原始的揺らぎとその後に通過した時空の情報が刻印されている。スニヤエフ博士らが予言した原始的揺らぎに伴うバリオン音波振動は2003年になって観測衛星WMAPにより観測され、これによっても加速膨張を発見するなど、宇宙モデルの決定に大きな役割を果たした。膨張宇宙モデルのパラメーターをバリオン音波振動の観測で決めることを提唱したのは博士らの先駆的な功績である。
現在の宇宙には銀河団が散在するが、宇宙背景放射がこの銀河団を通過する際に、熱い電子ガスとの衝突によって、そのスペクトルが変形することが1972年にスニヤエフ博士らにより示された。現在、SZ効果と呼ばれるこの効果の今後の観測は宇宙の大規模構造を解明する重要な観測原理になっていくと考えられている。
スニヤエフ博士の第二の業績は高エネルギー天体の研究に対する大きな貢献である。X線天体の発見によりその正体とX線放射機構が問われたが、1973年、スニヤエフ博士はニコライ・シャクラ博士と共に、ブラックホール等の高密度天体に物質が降着する機構を定式化し、そのエネルギー放射量とスペクトルを定量的に解明した。この理論はシャクラ-スニヤエフの標準モデルとよばれ、多様な天体への物質降着とそれに伴うエネルギー放射を記述する出発点になっている。
スニヤエフ博士は1980年代後半からは高エネルギー天文学の観測的研究にも活動を拡げ、ロシア及びヨーロッパのX線・γ線天文衛星プロジェクトを主導しており、多くの共同研究者を束ね、各種天体からの硬X線、軟γ線放射の生成機構を解明し、高エネルギー天文学の発展に寄与を続けている。
以上の理由によって、ラシッド・アリエヴィッチ・スニヤエフ博士に基礎科学部門における第27回(2011)京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです