Peter Stephen Paul Brook
第7回(1991)受賞
映画・演劇
/ 演出家
1925 - 2022
国際演劇創造センター(CICT) 主宰
40年以上にわたり、イギリス演劇界のみならず世界の演劇界のリーダーとして、大きな影響を与え続け、古典的でありながら同時に前衛的でもあるという演出表現によって、従来の演劇常識を打ち破るとともに、西洋演劇と東洋演劇とを様式を超えた次元で合体させることを実現した20世紀を代表する演出家である。
[受賞当時の部門: 精神科学・表現芸術部門]
ピーター・ブルック氏は、極めて古典的でありながら同時に前衛的でもあるという一見不可能なことを実現するとともに、演劇の劇的展開のリズムをゆるがせにしない演出で、40年以上にわたり、イギリスのみならず世界の演劇界のリーダーとして、大きな影響を与え続けてきた。特に、西洋演劇と東洋演劇の両方の特質を吟味しながら、単なる様式の次元にとどまらず、演劇表現の最も深い次元で両者を合体させた功績は、画期的なものであった。
ブルック氏は、10代から演出を手掛け、若くして天才とうたわれた演出家であり、30代に入ってからは、1962年に『リア王』を不条理劇風の解釈によって演出することにより、シェークスピア劇の演出に一種の革命をもたらした。その後も、残酷劇やハプニングの手法を取り入れた演出、非言語伝達の実験を試みるなど、演劇を根元的に問い直す仕事を続けてきた。
また、1970年には、パリで国際演劇研究センター(CIRT)を、次いで1974年からは国際演劇創造センター(CICT)も発足させて、演劇活動の国際化との取り組みを始められ世界中の若い演劇人の養成に力を尽くしている。
有名な著書としては『何もない空間』があり、古典の現代化が可能であることを示す手引きとして、演劇関係者と研究者に大きな影響を与えている。
ブルック氏は、欧米、アジア、アフリカなど十数カ国の俳優を同じ舞台に出演させることによって、言葉の壁という限界があるにもかかわらず、文化の違いを越えた世界的な演劇を実験し、成功させている。特に、9時間に及ぶ大作『マハーバーラタ』では、インドの叙事詩を素材に、文化の個性と普遍性の両立可能性をみごとに示した。
従来の演劇常識を打ち破り、前衛的でありながら多くの観衆を引き付ける彼の演劇は、人間の問題に直接迫る独自の手法を生むことによって、空前の境地に到達したといえる。ブルック氏はその意味で、まさに20世紀の演出家の頂点に立つ人であり、第7回京都賞精神科学・表現芸術部門の受賞者として、最もふさわしい。
プロフィールは受賞時のものです