Peter Raymond Grant

第25回(2009)受賞

基礎科学部門

生物科学(進化・行動・生態・環境)

ピーター・レイモンド・グラント

/  進化生物学者

1936 -

プリンストン大学 名誉教授

記念講演会

ダーウィンの志を継いで

2009年

11 /11

会場:国立京都国際会館

ワークショップ

進化・種分化・長期フィールド研究

2009年

11 /12

13:00~17:10

会場:国立京都国際会館

業績ダイジェスト

環境変化に応じた自然淘汰による急速な進化の実証

ガラパゴス諸島でのダーウィンフィンチ類に関する35年以上にもわたる野外研究を通じて、生物の形態や行動が環境変化に応じて急速に進化することを示した。この研究は、野外における自然淘汰による進化機構の解明によって進化学、生態学の分野へ多大な貢献をしただけでなく、進化を実証することで、一般社会にも大きな影響を与えた。

贈賞理由

ピーター・レイモンド・グラント博士とバーバラ・ローズマリー・グラント博士は、1973年以来35年以上にもわたるガラパゴス諸島でのダーウィンフィンチ類の研究を通じて、環境変化に応じて自然淘汰が生物の形態や行動を急速に変化させることを示した。この研究は、最も詳しく示された自然淘汰による進化の実証例として進化学、生態学の分野に多大な貢献をしただけでなく、進化の実例を示すことで、一般社会にも大きな影響を与えた。

グラント博士夫妻の最もインパクトの大きい研究業績は、急激に変化する自然環境下で自然淘汰によって地上フィンチ(Geospiza属)のくちばしの形態とサイズが急速に進化することを、自然淘汰の働く条件や原因も含めて詳細に実証したことである。自然淘汰を実証した研究はそれまでも存在したが、35年以上にわたり、自然淘汰が働く生態学的要因、進化的反応、複数の形質の進化の方向性、進化的変化に必要な遺伝的変異の維持機構まで含め、野外においてリアルタイムに進化を追跡した研究は、グラント博士夫妻によるものが初めてである。実験が困難である進化学において、グラント博士夫妻の実証研究は、ダーウィン以来の進化学における画期的な貢献であり、実証可能な科学としての進化学を確立した研究ともいえる。

また、グラント博士夫妻は、ガラパゴス諸島でのダーウィンフィンチ類の長期的な研究の中で、さえずりと生殖隔離の関係、形質間の遺伝的相関と進化的変化、新たな島への移住と創始者効果、野生状態での近交弱勢の検出、雑種形成による遺伝子浸透、環境激変によって生じる形質置換など様々な進化現象を明らかにした。このような一連の研究は、野外における進化のモデル研究として、他の生物での野外進化研究の推進に大きな影響を与えた。

これに加えて、一般社会への進化現象の正しい理解を浸透させ、今後の環境変化に対する進化学の重要性を示唆するなど、グラント博士夫妻の実証科学としての進化学への貢献は極めて高く評価されるものである。

以上の理由によって、ピーター・レイモンド・グラント博士とバーバラ・ローズマリー・グラント博士に基礎科学部門における第25回(2009)京都賞を贈呈する。

プロフィール

略歴
1936年
イギリス ロンドン生まれ
1960年
ケンブリッジ大学 卒業
1964年
ブリティッシュ・コロンビア大学 博士号(進化生物学)
1964年
イェール大学 博士研究員
1965年
マギル大学 助教授
1968年
マギル大学 准教授
1973年
マギル大学 教授
1977年
ミシガン大学 教授
1985年
プリンストン大学 教授
1989年
プリンストン大学 動物学教授
2008年
プリンストン大学 動物学名誉教授
主な受賞・栄誉
1998年
E.O.ウイルソン博物学賞、米国博物学会
2002年
ダーウィン・メダル、ロンドン王立協会
2005年
バルザン賞(集団生物学)、国際バルザン賞財団
2008年
ダーウィン=ウォレス・メダル、ロンドンリンネ学会
会員:
ロンドン王立協会、米国科学アカデミー、米国芸術科学アカデミー、カナダ王立協会
主な論文
1976年
Darwin's finches: Population variation and natural selection (Grant, P. R., Grant, B. R., Smith, J. N. M., Abbott, I. J. and Abbott, L. K.). Proceeding National Academy of Sciences, U.S.A. 73: 257-261, 1976.
1979年
Darwin's finches: Population variation and sympatric speciation (Grant, B. R. and Grant, P. R.). Proceeding National Academy of Sciences, U.S.A. 76: 2359-2363, 1979.
1989年
Evolutionary Dynamics of a Natural Population: The Large Cactus Finch of the Galápagos (Grant, B. R. and Grant , P. R.). University of Chicago Press, Chicago, 350 pp, 1989.
2002年
Unpredictable evolution in a 30-year study of Darwin's finches (Grant, P. R. and Grant, B. R.). Science 296: 707-711, 2002.
2006年
Evolution of character displacement in Darwin's finches (Grant, P. R. and Grant, B. R.). Science 313: 224-226, 2006.
2008年
How and Why Species Multiply: The Radiation of Darwin's Finches (Grant, P. R. and Grant, B. R.). Princeton University Press, Princeton, 272 pp, 2008.

プロフィールは受賞時のものです

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