Peter Raymond Grant
第25回(2009)受賞
生物科学(進化・行動・生態・環境)
/ 進化生物学者
1936 -
プリンストン大学 名誉教授
ガラパゴス諸島でのダーウィンフィンチ類に関する35年以上にもわたる野外研究を通じて、生物の形態や行動が環境変化に応じて急速に進化することを示した。この研究は、野外における自然淘汰による進化機構の解明によって進化学、生態学の分野へ多大な貢献をしただけでなく、進化を実証することで、一般社会にも大きな影響を与えた。
ピーター・レイモンド・グラント博士とバーバラ・ローズマリー・グラント博士は、1973年以来35年以上にもわたるガラパゴス諸島でのダーウィンフィンチ類の研究を通じて、環境変化に応じて自然淘汰が生物の形態や行動を急速に変化させることを示した。この研究は、最も詳しく示された自然淘汰による進化の実証例として進化学、生態学の分野に多大な貢献をしただけでなく、進化の実例を示すことで、一般社会にも大きな影響を与えた。
グラント博士夫妻の最もインパクトの大きい研究業績は、急激に変化する自然環境下で自然淘汰によって地上フィンチ(Geospiza属)のくちばしの形態とサイズが急速に進化することを、自然淘汰の働く条件や原因も含めて詳細に実証したことである。自然淘汰を実証した研究はそれまでも存在したが、35年以上にわたり、自然淘汰が働く生態学的要因、進化的反応、複数の形質の進化の方向性、進化的変化に必要な遺伝的変異の維持機構まで含め、野外においてリアルタイムに進化を追跡した研究は、グラント博士夫妻によるものが初めてである。実験が困難である進化学において、グラント博士夫妻の実証研究は、ダーウィン以来の進化学における画期的な貢献であり、実証可能な科学としての進化学を確立した研究ともいえる。
また、グラント博士夫妻は、ガラパゴス諸島でのダーウィンフィンチ類の長期的な研究の中で、さえずりと生殖隔離の関係、形質間の遺伝的相関と進化的変化、新たな島への移住と創始者効果、野生状態での近交弱勢の検出、雑種形成による遺伝子浸透、環境激変によって生じる形質置換など様々な進化現象を明らかにした。このような一連の研究は、野外における進化のモデル研究として、他の生物での野外進化研究の推進に大きな影響を与えた。
これに加えて、一般社会への進化現象の正しい理解を浸透させ、今後の環境変化に対する進化学の重要性を示唆するなど、グラント博士夫妻の実証科学としての進化学への貢献は極めて高く評価されるものである。
以上の理由によって、ピーター・レイモンド・グラント博士とバーバラ・ローズマリー・グラント博士に基礎科学部門における第25回(2009)京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです
京都賞再耕 #07 ピーター・レイモンド・グラント博士、バーバラ・ローズマリー・グラント博士 異なる考えや事実の間に見出されるつながりには大きな価値がある
科学や技術、思想・芸術の分野に大きく貢献した方々に贈られる日本発の国際賞「京都賞」。受賞者の方々は、道を究めるために人一倍の努力を重ね、その業績によって世界の文明、科学、精神的深化のために大いなる貢献をしてきた人たちです...
グラント博士夫妻、Frontiers of Knowledge Awardに
スペインのBBVA財団は6日、科学や芸術などに多大な貢献をした人に贈られるFrontiers of Knowledge Awardに、米国プリンストン大学の進化生物学者、ピーター・グラント博士とローズマリー・グラント博士夫妻を選んだと発表。
グラント博士夫妻、英国ロイヤル・メダルに輝く
英国王立協会は、18日、2017年のロイヤル・メダル受賞者に、米国プリンストン大学のピーター・グラント博士とローズマリー・グラント博士を選出したと発表。「ガラパゴス諸島でのダーウィンフィンチ類の研究により、自然淘汰が頻繁に起こり、その結果、進化が急速に進むことを実証した」ことが認められました。ロイヤル・メダルの長い歴史のなかでも、夫婦での受賞は初めてのことです。