Paul F. Hoffman
第39回(2024)受賞
地球科学・宇宙科学
/ 地質学者
1941 -
ビクトリア大学(カナダ) 客員教授
ハーバード大学 スタージス・フーパー地質学名誉教授
50年以上に及ぶ北極圏カナダとアフリカにおける膨大で徹底したフィールド調査から得た地質学的証拠により、多様な生命にあふれる今日の地球表層環境を作り出すことになった要因である「全球凍結」と「プレートテクトニクス」に関して画期的な業績を挙げた。
ポール・F・ホフマンは50年以上に及ぶ広域かつ精密なフィールド調査の積み上げにより、多様な生命にあふれる今日の地球表層環境を作り出した二つの要因、すなわち「全球凍結」と「プレートテクトニクス」に関して画期的な業績を挙げた。
1980年代後半に約6億年前の赤道域周辺に氷河が存在したことが証明され、その解釈として、地球表面全体が凍りついたとする「全球凍結(スノーボール・アース)仮説」が1992年に提唱された。しかし、それはあまりにも大胆な仮説で学界でもほとんど注目されなかった。地表全体がいったん凍結すれば元の状態には戻れず、全ての生物が絶滅するはずだとそれまで考えられていたためである。ホフマンは1993年からアフリカのナミビアで地質調査を始め、氷河堆積層の直上に温かい海で沈殿する炭酸塩岩層(キャップカーボネート層)が世界中で厚く堆積していることに注目して、その層の炭素同位体分析を行った。その結果は、全球凍結直後に生命活動が完全に停止したことを示すものだった。これらの発見は、全球凍結が起きた後に、火山から放出された二酸化炭素の温室効果による極端な温暖化で氷が融解し、露出した陸上岩石の風化作用によって溶け出た成分が温かい海で二酸化炭素と結合して炭酸塩岩層を形成した一方、光合成生物は長期にわたる全球凍結の影響でその活動がしばらく停止したままだったと考えれば説明がつくことから、全球凍結仮説と調和的であった。彼は、全球凍結が約7.2億〜6.4億年前に続けて2回起き、地球はそこから回復したことを地質学的証拠に基づいて初めて明らかにした。この全地球規模の環境激変は動物の初期進化を促し、生命進化史上有名な約5億2千万年前の動物の爆発的な多様化(カンブリア爆発)につながった可能性がある。
一方、地球表層の物質とエネルギー循環を支配するプレートテクトニクスは、巨大な板状岩盤であるプレートが生成、移動、沈み込みを続けるという考え方であり、現在の地震・火山活動、造山運動などの地球科学的現象のほとんどを統一的かつ整合的に説明できる。プレートテクトニクスは太陽系では地球だけに存在し、これこそが生命が生存可能な地球表層環境を作り出してきた根本要因と考えられている。しかし1980年代前半までは、過去のプレートテクトニクス活動の証拠は約5億年前までしかさかのぼれなかった。ホフマンは北極圏カナダの広大かつ詳細な野外調査から、北米大陸の中核が約20億年前のプレートテクトニクスによって複数の大陸塊が衝突合体することで形成されたことを実証した。さらに、大陸塊の衝突と合体や、超大陸の形成と分裂が約25億年前から今日までに4、5回繰り返されたことを復元し、プレートテクトニクスが、地球史46億年の前半にまでさかのぼれることを明らかにした。
このようにホフマンは、地球を今日われわれが知るハビタブルな惑星たらしめている根本要因は、固体地球と大気圏、水圏さらには生命圏の相互作用であることを、長年の地質学研究から明らかにし、その後も一貫して研究活動を活発に続けている。
以上の理由によって、ポール・F・ホフマンに基礎科学部門における第39回(2024)京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです