Paul Christian Lauterbur
第10回(1994)受賞
バイオテクノロジー及びメディカルテクノロジー
/ 化学者
1929 - 2007
イリノイ大学バイオメディカルMR研究所 所長
現在、医学領域において、画像診断法として広く行われているMRI(磁気共鳴イメージング)の基本原理を最初に提案し、実験的にその可能性を確かめ、MRIの進歩発展の基礎を創るとともに、多くの関連技術を開発し、臨床医学に多大な貢献をした。
[受賞当時の対象分野: バイオテクノロジー(メディカルテクノロジーも含む)]
第10回京都賞は先端技術部門において「バイオテクノロジー(メディカルテクノロジーも含む)」の分野で、ポール・クリスチャン・ラウターバー博士に贈られる。
ラウターバー博士は、現在、医学領域において、画像診断法として広く行われているMRI(磁気共鳴イメージング)の基本原理を最初に提案し、実験的にその可能性を確かめ、MRIの進歩発展の基礎を創るとともに、多くの関連技術を開発し、今日の臨床医学の発展に多大な貢献をした。
ラウターバー博士は、傾斜磁場を使いNMR信号に位置情報をエンコードする技術と、CTで実用化した投影データから断層面データを構成する、画像再構成アルゴリズム(投影復元法)を用いたNMRズーグマトグラフィーを着想した。このアイデアを“Image formation by induced local interactons”と題する論文にファントム実験結果をつけて、1973年Nature誌に投稿し、NMR信号の空間分布を測定して画像化するという画期的な手法を、世界で初めて発表した。博士のこの発表が端緒となり、様々な手法が提案され、1982年頃から臨床応用が開始され、今日のMRI技術開発の急速な隆盛を見るに至った。
MRIは、無侵襲性で、骨の影響を受けることがなく、軟部組織のコントラストにも優れている。体の軟部組織の情報を本質的に三次元情報として取得しているので、様々な測定モードを用いることにより、癌の発見はもちろんのこと、脳の活動の様子など血液の変化や化学的変化を伴うものの画像化にも適しており、現在目覚ましい進歩をとげている脳機能解明の研究分野にとって、ますます重要な役割を担うことは確実である。
ラウターバー博士はその後も、選択励起法、化学シフトイメージング、流速の測定、常磁性金属塩による造影、三次元MRI、サーフェイスコイルイメージングなどに関する論文を発表してMRIの発展に貢献し続けてきた。最近ではNMR顕微鏡の改善やNMRによる脳の研究を行っており、またMRIの提案以前には13Cスペクトロスコピーを初めて行い、これに関する数多くの実績もあげている。
今日MRIは、20年前の博士の基本原理に基づき、その後の多くの要素技術の発明と多くの技術者の努力によってなお急速に発展を続けている。
ラウターバー博士のMRIを通じた医学に対する貢献は絶大であり、ラウターバー博士は第10回京都賞先端技術部門の受賞者として最も相応しい。
プロフィールは受賞時のものです