Mikhael Leonidovich Gromov
第18回(2002)受賞
数理科学(純粋数学を含む)
/ 数学者
1943 -
フランス高等科学研究所 教授、ニューヨーク大学 クーラント研究所 教授
斬新なアイデアと伝統にとらわれない大胆な数学的手法によって、現代幾何学に新しい局面を切り拓き、多数の難問を解決すると同時に、幾何学、代数学、解析学などの多方面において、これらを統合する新しい視点を提出し、数理科学全般に多大な影響を与えた。
[受賞当時の対象分野: 数理科学]
グロモフ教授は斬新なアイディアと伝統にとらわれない大胆な数学的手法によって、現代幾何学に新しい局面を切り拓き、多数の難問を解決すると同時に、幾何学、代数学、解析学などの多方面において、これらを統合する新しい視点を提出し、数理科学全般に多大な影響を与えた。
グロモフ教授は、19世紀のリーマンとポアンカレ、20世紀のカルタンとチャーンに続く、現代の幾何学の巨星といえる。幾何学を振り返れば、空間の 大域的な構造と局所的な性質との関係を明らかにすることは、ガウスとリーマンが「空間」の数学的理論を提唱して以来の古くからの中心課題であった。
グロモフ教授の活躍は、1960年代から70年代の初めにかけての等長埋め込みや正則ホモトピー論の研究に始まり、70年代後半から80年代にリーマン空間の研究に対する真に革命的なアイディアを展開した。従来の幾何学では一つ一つの多様体の性質を考えていたのに対して、グロモフ教授はあらゆる多様 体を集めたいわば空間の空間を作り、そこに距離構造を導入することにより全体を俯瞰的に捉え、そこから逆に個々の多様体の性質を考える新しい方法を提唱し たのである。この方法を用いてこれまでの難問、特に局所的な見方である曲率と、大域的な性質である位相との関係を問う多くの問題に答を出し、一応の完成を 見たかに思えた現代幾何学に新たな突破口を開いた。
この結果、多くの副産物が得られた。例えば従来、球面のような正曲率空間に対してのみ考察されていたピンチング問題を負曲率空間にも拡張し、多くの 結果を得た。さらに空間の空間における位相的な極限を考えることによって、その境界に現れるアレキサンドロフ空間の研究を促した。グロモフ教授は、空間族 に距離構造を入れるという考え方を、それまで理解の浅かった離散群にも適用し、ここでも新しい結果を得ている。さらにグロモフ教授は、離散群における双曲 群の概念を提唱し、組み合わせ群論、位相幾何学の発展に大きく寄与した。また、シンプレクティック多様体では、グロモフ―ウィッテン不変量と呼ばれる全く 新しい位相不変量を発見している。
グロモフ教授のアイディアと手法は、その後も様々な方向に発展を遂げ、その適用範囲は、幾何学を超えて、解析学、代数学にも及んでいる。現在ではグ ロモフ教授はBio‐informaticsの研究を続けており、教授の影響は数理科学全体に及び、計り知れないものとなりつつある。グロモフ教授の成し 遂げた功績は枚挙に暇がなく、そのそれぞれが最大級の賞賛に値するものである。
以上の理由によって、グロモフ教授に基礎科学部門における2002年京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです