Michel Mayor
第31回(2015)受賞
地球科学・宇宙科学
/ 宇宙物理学者
1942 -
ジュネーブ大学 名誉教授
太陽系以外の惑星を見出すという天文学の長年の基本的問題に対して、分光装置の開発などの一連の観測技術の向上により、初めて太陽型恒星のまわりを公転する系外惑星を発見することで答えを与えるとともに、系外惑星の多様な姿を明らかにして新たな研究分野の開拓に大きく貢献した。
長年人類が問い続けてきた「我々の太陽系以外に惑星は存在するのか」という根源的な疑問に関して、近年、強大な進展がある。この知の地平を拓く進展の口火を切ったのがミシェル・マイヨール博士による太陽系外の惑星の発見である。観測的に明確な解答を与えたこの発見は過去20年間の天文学においても特筆すべきものであり、その後の数多くの太陽系外の惑星の発見を引き出しており、さらに今後は惑星科学や宇宙生物学などへの実証的な研究にも展望を与えている。その貢献は京都賞授賞にふさわしい業績である。
マイヨール博士は、一連の高分散分光装置の開発により、太陽に似た星の周りの小質量伴星の分光探査を精力的に続けてきた。その過程で、当時大学院生であったディディエ・ケロー博士とともに、ペガスス座51番星の周りを公転している惑星51 Pegasi bを1995年に発見した。それは、木星程度の質量でありながらわずか4.2日で公転しているという、太陽系の姿や惑星形成理論からは全く予想できない驚くべきものであった。
彼らの発見は、ジェフリー・マーシー博士による独立な観測によって確認され、系外惑星という全く新たな研究分野が誕生した。引き続き他の観測でも同じような短周期巨大ガス惑星が多く発見され、ホットジュピターと名付けられた。さらに、ほぼ円軌道の太陽系惑星とは異なり、大きく歪んだ楕円軌道をもつ惑星発見など、太陽系とは大きく異なる系外惑星の多様性が明らかになった。マイヨール博士はその後も高分散分光装置の改良を続け、地球の質量の数倍程度のスーパーアースの発見にも貢献している。
現在ではマイヨール博士が用いた視線速度法以外に、公転する惑星が恒星の一部を隠すことによる周期的恒星減光を用いたトランジット観測法など、複数の観測手法によって数多くの惑星が発見され、さらにはその特徴を統計的に議論できるまでの急速な進展をみせている。特に観測衛星ケプラーは トランジット観測法により数千個の候補を発見している。また、補償光学技術の開発により、すばる望遠鏡を用いた日本のグループをはじめとして、10年前にはほとんど不可能であった惑星の直接撮像にもすでに成功しており、今後の大きな発展が期待されている。
近い将来、巨大望遠鏡による惑星自体の精密観測を通じて、地球によく似た「第二の地球」の発見や、水が液体で存在するなど生命の発生の可能性があるハビタブルな惑星の確認、さらには、大気観測による生命兆候の確認など、新たな科学的チャレンジが続くと考えられる。このように系外惑星の研究は21世紀の天文学、惑星科学、宇宙生物学の主要なテーマとして掲げられるようになっており、マイヨール博士によって切り拓かれた研究の地平は確実に拡大しているといえる。
以上の理由によって、ミシェル・マイヨール博士に基礎科学部門における第31回(2015)京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです
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ミシェル・マイヨール博士がウルフ賞を受賞
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【映像】ミシェル・マイヨール博士「ドップラー分光法 : 地球型惑星発見への道」 - 2015年京都賞ワークショップ基調講演|2015年基礎科学部門受賞者
2015年11月12日に開催した第31回京都賞記念ワークショップ基礎科学部門における、ミシェル・マイヨール博士の基調講演の様子です。