Maurice Béjart
第15回(1999)受賞
映画・演劇
/ コリオグラファー(振付家)
1927 - 2007
ベジャール・バレエ・ローザンヌ 主宰
舞台芸術としてのバレエを、思想の表現しうる器にまで高めると同時に、長い間見失われていた舞踊の始原的な力を一挙に回復せしめ、舞踊のみならず、他の芸術はもとより、文学、思想の世界にまで影響を及ぼしている20世紀を代表するコリオグラファー(振付家)である。
[受賞当時の部門: 精神科学・表現芸術部門]
ベジャール氏は、舞台芸術としてのバレエを、思想表現の器にまで高めると同時に、長い間見失われていた舞踊の始原的な力を一挙に回復せしめ、舞踊のみならず、他の芸術はもとより、文学、思想の世界にまで影響を及ぼしてきた。
ベジャール氏は、1955年に実存主義の雰囲気を色濃く漂わせる「孤独な男のためのシンフォニー」を振り付け、コリオグラファーとして本格的なスタートをきり、1959年初演の「春の祭典」で一躍世界の注目を集めた。春祭に捧げられる犠牲の乙女の物語という原作からは遠く離れ、レオタードを身につけた全裸を思わせる男女同数の群舞が豊穣な性の力を誇示するその振付けは、真に革新的なものであり、観客に大きな衝撃を与えたのである。同時に、それは舞踊が本来持っていた根源的な力を改めて告げ知らせることでもあった。ベジャール氏は、シンメトリーを捨て、輪を、円環を、その原初的な力を迷うところなく選び取り、それまでの舞踊の額縁舞台という制約を突破することにより、当時世界の主流であったクラッシク・バレエの流れを大きく変えたのである。この「春の祭典」が、以後、世界の舞踊界に与えた影響は計り知れないものがある。
その後も、ベジャール氏は「第九交響曲」「ボレロ」等、多くの作品を発表し、舞踊の始原的な力を人間の五感に直に訴えて人々を魅了してきた。中でも、名作「ボレロ」が、映画「愛と哀しみのボレロ」(監督:クロ-ド・ルルーシュ)に感動的なクライマックスとして収録されていることは有名であるが、氏の作品が舞踊を一般 の人々にまで一層親しみやすいものにしたことは紛れもない事実である。また、氏は舞台芸術のための学校<ムードラ>を設立して後進の育成にも力を注いでおり、ここから現在活躍中の多くのダンサー、コリオグラファーが巣立っている。
ベジャール氏により、舞踊は思索の時間となり、舞台は思想の空間になったのである。氏の思想の核心に潜むのは愛であり、人種や民族の壁を超えて結び合おうとする姿勢である。舞踊を中心に、人間の生命をより深く考え、より強く感じようとする新しい精神の潮流の中にあるベジャール氏は、そのまま21世紀を切り開く芸術家である。よって、ベジャール氏に、精神科学・表現芸術部門における1999年京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです