Leroy Edward Hood
第18回(2002)受賞
バイオテクノロジー及びメディカルテクノロジー
/ 生物学者
1938 -
システム生物学研究所 社長兼所長
研究者の熟練的技法に依存していた分子生物学・分子遺伝学の分野に自動化装置の考え方を導入し、それを具現化することによって、100年近くはかかるであろうと予測されたヒトゲノムの構造決定をわずか数年で可能にし、生命科学の発展に多大な貢献をした。
フッド博士は、研究者の熟練的技法に依存していた分子生物学・分子遺伝学の分野に自動化装置の考え方を導入し、それを具現化することによって、100年近くはかかるであろうと予測されたヒトゲノムの構造決定をわずか数年で可能にし、生命科学の発展に多大な貢献をした。
1970年代にすべての生物の遺伝情報を司るDNAを断片化し、コピーするDNAクローニング技術、それに基づくDNA塩基配列決定技術といった遺伝子工学の技術が確立した。しかしそれらはいずれも長い時間と研究者の高度な熟練を要するものであった。
まずフッド博士は従来の100倍もの高感度の自動ペプチド配列解析機を開発した。これは我々の体の重要な構成要素である蛋白質のアミノ酸配列の決定 を自動的に行うペプチド配列解析機の高速化・高感度化であり、気体相を用いた検知方法によってその感度を従来よりも二桁も増大させ、生体内の微量蛋白質の 分析を可能とするものであった。1984年にフッド博士は自動ペプチド合成機と共に、自動DNA合成機の開発を行った。これはほぼ同時期に開発された DNAの増幅法であるPCR法の飛躍的な普及をもたらし、これによってDNA研究全体を飛躍的に推進したことは議論の余地がない。さらに1986年、フッ ド博士は世界初の自動蛍光DNA配列解析機を発表した。30億という膨大な量の遺伝暗号の解読が現実のものと捉えられる背景となった重要な報告であった。 この自動化によって従来よりもはるかに短時間で配列決定がなされるようになり、これが現在利用されているキャピラリー型のDNA配列解析機の開発の基盤と なった。
2001年にはヒトゲノムの概要配列が発表されたが、これらヒトゲノム計画の急速な進歩は博士らによる自動DNA合成機、自動DNA配列解析機の開発によるところが大きい。
ゲノム科学の発展とその成果は画期的な新しい治療法の開発や個人に最適の治療を選択する方法の開発につながるのみならず、種々の生物種の遺伝情報を 読み取ることにより、生命進化の歴史を辿るための貴重な情報を得ることを可能とし、さらに食糧問題や環境問題の解決の手がかりとなる有力な情報を提供する ことは疑いの余地がない。
このようなゲノム科学の進展には多くの種類の高速自動化機器類の開発が大きな原動力となってきたが、フッド博士はその先端を切り開いてきた。
以上の理由によって、フッド博士に先端技術部門における2002年京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです