Leonard Arthur Herzenberg
第22回(2006)受賞
バイオテクノロジー及びメディカルテクノロジー
/ 免疫・遺伝学者
1931 - 2013
スタンフォード大学教授
細胞をその特性に従って判別しながら自動的に生きたまま分取する装置(FACS)の開発を主導し、蛍光標識単クローン抗体を用いた解析を組み入れることにより、今日の生命科学や臨床医学の飛躍的発展に多大な貢献をした。
レナード・アーサー・ハーツェンバーグ博士は、Fluorescence-Activated Cell Sorter(FACS)と名付けられた、細胞をその特性に従って生きたまま分取する装置の開発を主導した免疫・遺伝学者である。博士は、2種類のリンパ球、T細胞とB細胞、それぞれの機能を調べるため、その特性に従って細胞を分取する装置を発想した。ロスアラモス国立研究所で開発された大きさに基づいて粒子を分画する装置を改造するために、エンジニアを含む開発チームを独自に組織して試作機を作り、1969年に蛍光標識した細胞を生きたまま分取することに世界で初めて成功した。さらに、改良を続け1970年代初めには医用機器会社との共同により、商業的生産ベースの装置開発を成功させ、世界中に普及させた。この方法は、細胞表面抗原に特異的な蛍光標識単クローン抗体を用いることにより飛躍的に発展した。この装置は、細胞の特性を示す蛍光標識した単クローン抗体の発する蛍光強度、細胞の大きさを示す前方散乱光、細胞の内部構造を示す側方散乱光を正確に測定し、その情報に基づき一個一個の細胞を生きたまま無菌的に分取するものである。
FACSは、基礎生物学から、幹細胞生物学を含む医学などの応用生物学に至るまで、生命科学全般にわたって広く用いられている。例えば臨床医学関係において、HIV感染者の病態把握や白血病を代表とする造血系悪性腫瘍の診断にも用いられるなど、バイオテクノロジー及びメディカルテクノロジー分野に対する貢献は絶大である。この画期的な細胞分別・分取装置の出現によって、我々の体に60兆個もあると言われている細胞中のうちの特定の機能を持つ細胞の数を数えたり、一細胞から生体成分を抽出できるようになった。細胞から調製した染色体の分離とそれに基づく各染色体ライブラリーの構築などによるゲノム科学研究のみならず、現在では特定細胞のプロテオミクス解析を可能にするなどポストゲノム研究の発展も確実に支えている。
FACSなくしては現在の進展が考えられなかった生命科学分野は数多く、FACSはバイオテクノロジー及びメディカルテクノロジーの金字塔の一つと言っても過言ではなく、博士の貢献は極めて高く評価されるものである。
以上の理由によって、レナード・アーサー・ハーツェンバーグ博士に先端技術部門における第22回(2006)京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです