John Werner Cahn
第27回(2011)受賞
材料科学
/ 材料科学者
1928 - 2016
米国国立標準技術研究所 名誉上級研究員/ワシントン大学 客員教授
アロイ材料内で起きるスピノーダル分解の研究に取り組み、系の自由エネルギーに歪みエネルギーの項を取り入れた理論を確立し、アロイ材料の機能を最大限に引き出す最適な微細構造の予測を可能にした。この理論によって、アロイ材料開発の設計指針が確立され、材料科学の進展のみならず、素材産業への発展にも大きく貢献した。
一般に使用されている構造材料あるいは機能材料は、単一成分で構成されているものは少なく、異なる成分を組み合わせた混合系(アロイ)である。アロイ材料において望ましい材料特性や機能を発揮させるには、材料を構成する各成分の組合せおよびアロイの組成の分布など組織構造の制御が不可欠である。1950年代までは、アロイ材料の特性や機能を最大限に発揮させるための各成分の選択と組織構造の制御は試行錯誤で行われており、アロイ材料の特性や機能を最適・最高にするための設計指針が強く求められていた。
アロイ材料の組織構造は、混合系の自由エネルギーの減少の過程で捉えることができる。しかし、1950年代の熱力学では均一系の材料しか取り扱えず、異種の成分が混合されて生じる組成のゆらぎなどの微細組織構造の制御は、均一系自由エネルギーの概念では取り扱いが不可能であった。
ジョン・ワーナー・カーン博士は、マッツ・ヒラート博士が構築した一次元スピノーダル分解理論を三次元空間に拡張するとともに、歪みの効果も取り入れ、アロイ材料物性を所望のものとするための設計指針を提示した。すなわち、アロイ材料に最適な物性や機能を発揮させるための組成ゆらぎは、自由エネルギーに弾性歪みエネルギーを加えたスピノーダル分解に基づく材料組織形成理論で決定できることを初めて提示し、微細組織を定量的に取り扱う方法を提案した。この理論は、優れた物性や機能が求められる金属、ガラス、半導体、高分子、耐熱材料、磁性材料などの設計と製造に適用されている。さらに、近年盛んに研究が進められている組織形成シミュレーション法であるフェーズ・フィールド法も、カーン博士の研究が基礎になっている。
以上のように、カーン博士は、スピノーダル分解によるアロイ材料の微細組織構造の形成と制御が、歪みエネルギーを加味した自由エネルギーによって決定されることを初めて提唱し、アロイ材料の物性や機能を最大限に引き出す最適な微細組織の予測を可能にした。この理論により、アロイ材料開発の設計指針が確立され、材料科学の進展のみならず、素材産業への展開にも大きく貢献した。
以上の理由によって、ジョン・ワーナー・カーン博士に先端技術部門における第27回(2011)京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです