Jane Goodall
第6回(1990)受賞
生物科学(進化・行動・生態・環境)
/ 霊長類学者
1934 -
ゴンベ・ストリーム研究センター 所長
タンガニーカ湖北東岸のゴンベ国立公園で、30年間に及ぶ野生チンパンジーの調査により、その行動・社会・生態の詳細を明らかにした。人類のみに固有と考えられてきた行動や能力が、チンパンジーの社会にも見出しうることを実証し、従来の人間観に大きな衝撃を与え、人類進化に関する理論を一変させたばかりでなく、行動科学領域の理論構築にも影響を及ぼした。
[受賞当時の対象分野: 生物科学(行動・生態・環境)]
ジェーン・グドール博士は、1960年にタンガニーカ湖北東岸のゴンベ国立公園で野生チンパンジーの調査に着手して以来、30年間に及ぶ長期調査によって、その行動・社会・生態の詳細を明らかにした。それは、道具の使用と製作、狩猟と肉食行動、食物の物乞いと分与、多彩な社会的調整行動、個体間の協調、子殺し、殺戮を含む集団間闘争等々、数々の驚異的な発見からなっている。人類のみに固有と考えられてきた行動や能力がチンパンジーの社会にも見いだしうることを、彼女は明確に実証したのである。
これらの新知見とともに、彼女の研究の真髄ともいうべき、母子の絆についての詳細な自然誌的追跡は、長い寿命をもつチンパンジーが極めて複雑な社会化の過程を必要とすることをみごとに描き上げたといってよい。それは、真のナチュラリストによってもたらすことのできた研究成果であり、生涯を賭けることによってはじめて可能であった独自の方法論であったという輝きをも放っている。
科学的視点に立って人間自体を見なおすことは、今後ますます必要とされるものであり、グドール博士の研究はこの研究分野の展開に、極めて重要でかつ新鮮な一石を投じたものといってよく、従来の人間観に大きな衝撃を与え、人類進化に関する理論を一変させたばかりでなく、行動科学領域の理論構築にも影響を及ぼした。
グドール博士はチンパンジーの研究のほかに、ブチハイエナやキイロヒヒについての優れた研究をも残しており、また、自然保護になみなみならぬ努力を注いできたことも高い評価に値する。
自然科学の理論的体系は、自然現象の克明な観察と実験に基づいた考察を基盤にして構築されるものであり、グドール博士は、長期間にわたる困難な環境下での野生チンパンジーについての研究成果を通じて、人間自体を見つめなおすという研究分野の展開に重要な基盤を与えたことで、京都賞基礎科学部門で受賞するに最もふさわしい存在であるといえる。
プロフィールは受賞時のものです