Hirotugu Akaike
第22回(2006)受賞
数理科学(純粋数学を含む)
/ 統計数理学者
1927 - 2009
統計数理研究所名誉教授
情報数理の基礎概念に基づく、実用性と汎用性の両方を兼ね備えた、統計モデル選択のための規準 Akaike Information Criterion(AIC) の提唱により、データの世界とモデルの世界を結びつける新しいパラダイムを打ち立て、情報・統計科学への多大な貢献をした。
[受賞当時の対象分野: 数理科学]
赤池弘次博士は、1970年代初頭、情報数理の基礎概念に基づく、実用性と汎用性の両方を兼ね備えた、統計モデル選択のための規準Akaike Information Criterion(AIC)を提唱し、統計学でのデータの世界とモデルの世界を結びつける新しいパラダイムを打ち立て、情報・統計科学への多大な貢献を行った。
赤池博士は、蚕糸過程の解析、セメントキルンの制御、火力発電所の制御などの実地研究を通して、情報数理の基礎概念に基づいてAICを導出し、モデル選択という知的情報処理に共通の重要な問題に対して画期的な解答を与えた。AICは、モデルのデータに対する適合度とシンプルさという相反する二つの要請を同時に満たすモデル選択を可能にする。このような性質をもつAICは、現在、数学・統計学の分野以外にも、医学・疫学、生物学、制御工学、経済学、環境学、地球物理学、社会科学などの広範な分野においてモデル選択の指針として広く実用に供されている。
赤池博士は、種々の工業プラントの統計的制御の実用化、多変量時系列解析における時間領域でのモデリング手法の開発、時系列解析ソフトウェアTIMSACの開発・普及等多くの業績を挙げている。さらに、赤池博士は、1980年代初頭にいち早くベイズモデルの重要性を見抜き、その情報・統計科学の立場からの実用化に貢献した。現在の知的情報処理諸分野でのベイズモデルの隆盛を観る時、その慧眼には驚きを禁じ得ない。
情報処理技術の飛躍的な発展により、現在、我々は過去とは比較にならない大量のデータを入手し処理することができる。したがってそこから知識と情報を抽出し、あるいは我々を脅かすリスクを予測し、制御することは、人類社会の生存・発展にとって非常に重要になっている。このような時代認識に立つ時、赤池博士の提唱したAIC、それに基づくモデリングの方法論は、人類の財産として、今後益々重要な役割を果たし続けることは間違いなく、博士の業績は高く評価されるものである。
以上の理由によって、赤池弘次博士に基礎科学部門における第22回(2006)京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです