Eugene Newman Parker
第19回(2003)受賞
地球科学・宇宙科学
/ 物理学者
1927 - 2022
シカゴ大学 名誉教授
地球・太陽・宇宙にわたる電磁流体現象の研究により、太陽風をはじめとする多くの基礎概念を提案し、地球と宇宙の科学に新たな領域を切り拓いた。その影響は恒星や星間空間、銀河系の様々な現象の解明に大きく寄与しており、宇宙の新しい物理像を生みだした。
パーカー教授は半世紀にわたって、太陽と宇宙の電磁流体力学現象の研究に携わり、「太陽風」をはじめとする多くの基礎概念を理論的に構築し、地球と宇宙の科学に新たな領域を切り拓いた。これにより、地磁気嵐やオーロラ等の地球磁気圏現象、太陽磁場の起源、太陽の外層大気(コロナ)の活動性と太陽風の変動、惑星間空間の磁場、彗星の尾の吹流し、宇宙線強度の変動など、太陽・地球間の多様な現象が解明され、その影響は恒星や星間空間、銀河系の電磁流体現象の研究にも発展し新しい宇宙観を生み出した。
パーカー教授の数多い業績の中でも特筆すべきは「太陽風」を理論的に予知したことである(1958年)。磁気嵐などの研究から、太陽コロナでの爆発時に電離した気体(プラズマ)の雲が放出されると推測はあったが、常時しかも超音速でプラズマが流れ出ていることをパーカー教授は理論的に導出した。特に、超音速流であるとの予言はそれまでの常識を覆すものであり、数年後、人工衛星による直接観測で見事に実証された。
太陽風は太陽の磁場を帯びて噴き出し、太陽の自転の影響でらせん状の磁場を宇宙空間につくる。地球に吹きつける太陽風は地球の磁場圏で止められ、迂回して流れる。地球は、この磁気圏により超高温・超音速の太陽風から守られている。太陽風の確認で、地磁気嵐や衝撃波の生成、オーロラ、放射線帯など地球を取り巻く現象を解明する枠組みが完成したといえる。
真空であると考えられていた宇宙空間を実は高速の太陽風が常時満たしており、それで地球・太陽間の種々の現象が解明されるなど、パーカー教授の理論は宇宙空間の認識を根本的に変えた。
またパーカー教授は、電磁流体力学理論を「星風」や「銀河風」など宇宙のあらゆる現象に拡張した。さらに長年の難問である天体磁場のダイナモ理論にも重要な寄与をし、著書『宇宙磁場―その起源と活動性―』(1979年)はその分野におけるバイブル的存在になっている。300編以上にも及ぶ論文はそのほとんどが単著であり、またその旺盛な活力によって、宇宙開発や基礎科学の振興にも大きく貢献した。
このようにパーカー教授は、電磁流体力学による研究を、太陽、宇宙空間、恒星、銀河系の様々な宇宙現象の解明へ展開し、宇宙物理学を発展させた。
以上の理由によって、ユージン・ニューマン・パーカー教授に基礎科学部門における第19回(2003)京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです