Cecil Taylor
第29回(2013)受賞
音楽
/ ジャズ・ミュージシャン
1929 - 2018
フリー・ジャズの代表的なピアニストとして、従来のイディオムによらない革新的な即興演奏を、独特の音楽構成と打楽器的な演奏スタイルによって生み出し、ジャズに新たな可能性を切り拓いた。長年にわたって妥協することのない孤高の道を歩んできた芸術家であり、卓越した演奏技術と強靭な精神力から生み出される生命力あふれる演奏は、音楽の広い分野に多大な影響を及ぼしてきた。
セシル・テイラー氏は1950年代末に興ったフリー・ジャズ運動の代表的なピアニストで、揺るぎない黒人意識、類まれな演奏技術、衰えぬ精神力によってジャズ、そしてアフリカ系アメリカ音楽界全体に多大な影響を及ぼした即興演奏家である。
1929年ニューヨーク生まれのテイラー氏は、ニューイングランド音楽院などで専門教育を受けた。折しも、現代音楽界全体のなかで即興性と偶然性に関心が高まった1950年代後半、従来のジャズの演奏の方式、即ちテーマの後、和声進行にもとづく各自の即興的ソロへと続き、最後にテーマに戻るという定型を破壊し、フレーズのまとまりにもとづくまったく独自の新しい生命力あふれる即興演奏法を編み出した。加えて1960年代初頭には、定速的な拍の枠組を破壊し、瞬間的なビートを打ち込む革新的なインタープレイの方法を編み出して表現の自由を飛躍的に拡大した。1964年にはフリー・ジャズ運動の重要な起点となったジャズ・コンポーザーズ・ギルドの創立に立ち会い、1968年、そのアイデアを発展させたジャズ・コンポーザーズ・オーケストラと歴史的な共演を行った。そこでは彼のピアノのスタイルがオーケストラ化され、フリー・ジャズはひとつの頂点を迎えた。また1966年録音の『コンキスタドール!』、『ユニット・ストラクチャーズ』はジャズ史上の金字塔として評価が高い。
手のひらまで用いた打楽器的な奏法と、複雑でポリリズミックな構成は、ヨーロッパ音楽の前衛的語法を参照しているものの、ストライド・ピアノに始まる黒人ピアノの伝統の抽象的で急進的な展開であるとテイラー氏自身は捉えている。1960年代以降、演奏は自作曲に限り、旋律やリズムのパターンを強烈な打鍵で反復しながら崩し、めまぐるしく新しい局面を積み上げていくスタイルを完成させた。
1980年代後半にはヨーロッパの即興演奏家とたびたび共演・録音を行い、それはベルリンで録音された記念碑的な11枚組CDボックス・セット等に結実した。そこでは1960年代以降のヨーロッパの即興演奏の伝統が、アフリカ系アメリカの伝統にベースをおくテイラー氏の精神的に奥深く強靭な表現と火花を散らしている。
ソロからオーケストラとの共演にいたる幅広い演奏活動のほか、舞台上ではダンス、朗読も行い、またダンサーやダンス・カンパニーとの共演、黒人意識を強く打ち出した詩集の出版も行っている。狭義の音楽家の枠をはるかに超える創造の道を歩んできたことは、特筆に値する。
このように、同氏は60年にわたって孤高の道を歩んできたアフリカ系アメリカ音楽の最高峰を行く妥協を知らない総合的な芸術家である。
以上の理由によって、セシル・テイラー氏に思想・芸術部門における第29回(2013)京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです