Ariane Mnouchkine
第35回(2019)受賞
映画・演劇
/ 演出家
1939 -
太陽劇団 創立者・主宰
創立した太陽劇団とともに、歴史と政治を主題にする、国際的評価の高い傑作を生み出し続けている。ヒエラルキーを排した独特の劇団組織と方法論としての集団創作によって舞台芸術の創造を原理から捉え直し、古今東西の伝統芸能を参照することで舞台表現を革新している。
アリアーヌ・ムヌーシュキン氏は1964年に創設した「太陽劇団」を半世紀以上率い、国際的に評価された傑作を次々と世に創出した。その卓越した才能の根幹には演劇は共同で考え、創造し、享受すべきだとの信念がある。氏は多様な人材を糾合し、彼らの中に眠っている技能や創造力を開花させることで、劇団員の高い精神性と奔放な想像力を育んだ。
制作に際して氏はまず演劇作品のあり方を問い、舞台芸術の創造を原理からとらえ直そうとした。それはヒエラルキーを排した劇団組織や、舞台創造の方法論としての集団創作に現れている。さらに観客を演劇に欠かせないもう一人の「創造者」として位置付け、俳優・演出家と観客の間に強い関係を築くことを意図した。パリ郊外のカルトゥシュリーを拠点とする劇団の公演はさまざまな人々が出会う祝祭的な場として体験され、「民衆演劇」の理想を実現したと言える。
氏は観客の感性に訴えるためサーカス、コメディア・デラルテ、日本の能、歌舞伎、文楽、インドのカタカリ舞踊劇などの伝統芸能を参照しつつ、身体性を重視した演技法を探求した。それらを現代人の感性で再構築し、俳優の即興演技を生かした独自の方法を案出した。その一つが文楽に想を得た『堤防の上の鼓手』(1999)だ。ここで追求したのは演劇を舞踊、音楽、文学など他の分野と融合させた総合芸術で、現代演劇で行われた同様の試みの中でも傑出した成果をあげた。1980年代初頭には『リチャード二世』(1981)を皮切りにシェイクスピア三部作を上演、古典劇の新演出でも優れた手腕を発揮した。それまでの作品『1789』(1970)などと同じく、同時代人とともに自らの歴史を把握し直し、混沌とした現代の闇を明示しようと試みた。エレーヌ・シクスー氏の叙事詩によりカンボジアの大虐殺を描いた『カンボジア王シアヌークの恐るべくも未完の物語』(1985)や、数々の証言に基づいて難民らの苦闘を綴った『最後のキャラバン宿』(2003)などでは適度の娯楽性を保ちつつ、同時代人の歴史・政治への強い意識啓発を促した。
かくのごとく、ムヌーシュキン氏の活動は演劇創造の方法と表現を革新し、世界的に大きな刺激と影響を与え続けている。以上の理由によって、アリアーヌ・ムヌーシュキン氏に思想・芸術部門における第35回(2019)京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです
京都賞再耕 #09 アリアーヌ・ムヌーシュキン演劇は素晴らしい人間の芸術である
「京都賞再耕──じっくり味わう受賞者のことば」の連載では、これまでの京都賞受賞者へのインタビューを通して、記念講演会で語られた言葉をさらに掘り下げ、独自の哲学や思考プロセス、探求者としての姿勢などに迫りたいと思います。今回は2019年に思想・芸術部門で受賞した、アリアーヌ・ムヌーシュキン氏にお話を伺いました。
ムヌーシュキン氏率いる「太陽劇団」の来日公演が決定!
ロームシアター京都は、3月1日に行われた自主事業ラインアップ説明会で、アリアーヌ・ムヌーシュキン 氏(第35回京都賞 思想・芸術部門受賞者)が率いる「太陽劇団」(フランス)の公演を、2023年11月4日(土)・5日(日)...