Antony Hoare
第16回(2000)受賞
情報科学
/ コンピュータ科学者
1934 -
オックスフォード大学 名誉教授
コンピュータの大型化、大容量化が始まった1960年代初期より、プログラミング言語の定義と設計に関するホーア論理の提唱をはじめ、プログラムの仕様記述、設計、実行、メンテナンスについて、コンピュータの性能を引き出し、ソフトウェアの信頼性向上のための公理論的アプローチに基づく種々の提案を行い、ソフトウェア科学の発展に多大な貢献をした。
ホーア教授は、1960年代初期より、ソフトウェアの信頼性向上のために公理論的アプローチを中心に種々の提案を行い、ソフトウェア科学の発展に根幹的な貢献をした。
教授は1960年代初め、今日最もよく使われる効率の良い整列アルゴリズムである「クイック・ソート」を考案した。これは、その基本アルゴリズムを簡潔な再帰的記述によって表現する画期的なもので、当時の計算機の性能を最大限に使った高速で巧妙な手法であった。
1969年、教授はまた、ホーア論理と呼ばれている公理論的意味論を用いて、プログラミング言語の定義付けと設計を行った。これは、教授の深い洞察力と独創性に裏打ちされ、それまでのソフトウェアの歴史に一線を画す強力かつ優美なものである。ここに、教授はプログラミングを厳密な科学として確立した。1960年代後半、コンピュータの大型化、大容量化に伴い、大規模ソフトウェアの開発が要求される中、その開発の困難や、システムの信頼性の問題からソフトウェア危機が叫ばれたとき、教授はホーア論理を基礎に、プログラムの正しさは論理的に検証されるべきものであるとの指針を明確に打ち出した。
ここで教授は、構築されたソフトウェアの正当性、信頼性を保証するための方法論を与えるべく、データ型の概念を明確にし、データの構造化の重要性を主張するとともに、階層化と抽象化を中心に据え、プログラムを段階的に詳細化していく構造化プログラミングの体系を提唱した。この教授のデータ型の概念と検証規則は、良質なプログラム設計のための根本的な指針となり、ソフトウェア危機を克服するための大きな原動力になった。また、1972年には、オペレーティング・システムの抽象化と構造化の研究を通じてモニターという概念を提案、さらに、その後提唱された並列処理システムの挙動を記述する理論的枠組みである相互通信逐時システム(CSP)は、並列コンピュータの実用化に基礎を与え、今日の普及に大きく寄与した。
ホーア教授のソフトウェア科学に対する業績は、いずれもが高度化、多様化するコンピュータソフトウェアの根幹にかかわるもので、分野の広さ、またその理論の深さのすべてにおいても比類のないものであり、安全な情報化社会を構築するために不可欠な技術的基盤を与えるものであった。今日のソフトウェアにかかわる科学と技術の発展は、教授の業績に負うところがきわめて大きい。
よって、ホーア教授に先端技術部門における2000年京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです