Anthony James Pawson

第24回(2008)受賞

基礎科学部門

生命科学及び医学(分子生物学・細胞生物学・システム生物学等)

アンソニー・ジェームス・ポーソン

/  分子生物学者

1952 - 2013

マウントサイナイ病院サミュエル・ルネンフェルド研究所 特別上級研究員、トロント大学 ユニバーシティ・プロフェッサー

記念講演会

生命(いのち)のメカニズムについて

2008年

11 /11

会場:国立京都国際会館

ワークショップ

シグナルネットワークと生命機能

2008年

11 /12

13:00~17:00

会場:国立京都国際会館

業績ダイジェスト

シグナル伝達機構におけるアダプター概念の提唱と実証

シグナルタンパク質に特徴的なアダプター構造が存在し、アダプターを介したタンパク質の会合が細胞内シグナルの連鎖カスケードを誘導し細胞の増殖や分化を制御するという概念を提唱し実証した。この概念は、シグナル伝達の基本的なパラダイムの一つとして、生命科学の発展に極めて大きな貢献を果たしている。

[受賞当時の対象分野: 生命科学(分子生物学・細胞生物学・神経生物学)]

贈賞理由

アンソニー・ジェームス・ポーソン博士は細胞内シグナルを伝達する新しい機構を見出し、細胞の増殖と分化を制御する重要な分子的基盤を明らかにした。1970年代後半、癌遺伝子産物や増殖因子受容体の自己リン酸化がチロシンリン酸化であることが明らかにされた。しかしチロシンリン酸化による細胞内シグナル伝達の機構は不明であった。ポーソン博士は細胞内シグナルタンパク質にSrc homology 2(SH2)と自らが命名した特徴的なモジュール構造を持つドメインがあり、このドメインが他の分子のリン酸化チロシンとその周辺のアミノ酸配列を認識、結合することによってそれ以降の細胞内シグナルの連鎖カスケードを誘導し、細胞の増殖や分化を促進することを明らかにした。

ポーソン博士は癌遺伝子産物中の触媒ドメイン(チロシンリン酸化酵素)以外の領域も細胞の癌化に必要であるという知見を発展させ、種々の癌遺伝子産物やシグナルタンパク質にSH2と命名した約100アミノ酸残基からなる共通の配列が存在することを見出し、SH2ドメインがチロシンリン酸化酵素とその基質間の相互作用を介在することを明らかにした。ポーソン博士はSH2ドメインが細胞膜や細胞骨格タンパク質との結合を媒介するアダプターとして働くという概念を提唱し、実際にRasGAPシグナルタンパク質のチロシン残基がリン酸化されると、それによって結合してくるタンパク質が存在することを明らかにした。さらに試験管内で種々のSH2ドメインがチロシンリン酸化されたタンパク質と直接結合することを実証した。また種々のSH2ドメインとタンパク質の結合強度が異なることを示し、個々のSH2ドメインが特異性を持ってチロシンリン酸化タンパク質と結合して特徴ある細胞内シグナルの連鎖カスケードを誘導することを明らかにした。以上の成果はアダプターがカセットのように働きタンパク質とタンパク質の会合を連鎖することで、細胞の増殖と分化を制御し、癌化のように細胞に大きな変化をもたらすシグナル伝達の仕組みの根幹として働いていることを示したものである。従って、ポーソン博士のアダプター概念の提唱とその実証はシグナル伝達の基本的なパラダイムの発見の一つとして、その後の生命科学の発展に極めて大きな貢献を果たしているものである。

以上の理由によって、アンソニー・ジェームス・ポーソン博士に基礎科学部門における第24回(2008)京都賞を贈呈する。

プロフィール

略歴
1952年
イギリス メイドストーン市生まれ
1976年
ロンドン大学 博士号(分子生物学)
1976年
カリフォルニア大学バークレー校 博士研究員
1981年
ブリティッシュ・コロンビア大学 理学部 微生物学科 助教授
1985年
マウントサイナイ病院 サミュエル・ルネンフェルド研究所 上級研究員
1985年
トロント大学 医学部 遺伝医学・微生物学科 准教授
1989年
トロント大学 医学部 遺伝医学・微生物学科(現分子遺伝学科) 教授
1998年
トロント大学 ユニバーシティ・プロフェッサー
2000年
マウントサイナイ病院 サミュエル・ルネンフェルド研究所 所長
2006年
マウントサイナイ病院 サミュエル・ルネンフェルド研究所 特別上級研究員
主な受賞・栄誉
1994年
ガードナー国際賞、ガードナー財団
2000年
カナダ勲章(オフィサー)
2005年
ウルフ賞医学部門、ウルフ財団
2005年
ロイヤルメダル、ロンドン王立協会
2006年
英国名誉勲位
会員:
ロンドン王立協会、カナダ王立協会、米国科学アカデミー、米国芸術科学アカデミー
主な論文
1984年
Identification of functional regions in the transforming protein of Fujinami sarcoma virus by in-phase insertion mutagenesis (Stone, J. C., Atkinson, T., Smith, M. E. and Pawson, T.). Cell 37: 549-558, 1984.
1986年
A noncatalytic domain conserved among cytoplasmic protein-tyrosine kinases modifies the kinase function and transforming activity of Fujinami sarcoma virus P130gag-fps (Sadowski, I., Stone, J. C. and Pawson, T.). Molecular Cellular Biology 6: 4396-4408, 1986.
1990年
Binding of SH2 domains of phospholipase Cγ1, GAP and Src to activated growth factor receptors (Anderson, D., Koch, C. A., Grey, L., Ellis, C., Moran, M. F. and Pawson, T.). Science 250: 979-982, 1990.
1990年
Src homology region 2 domains direct protein-protein interactions in signal transduction (Moran, M., Koch, C. A., Anderson, D., Ellis, L., England, L., Martin, G. S. and Pawson, T.). Proceeding National Academy of Sciences, U.S.A. 87: 8622-8626, 1990.

プロフィールは受賞時のものです

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