Andrzej Wajda
第3回(1987)受賞
映画・演劇
/ 映画監督
1926 - 2016
戦後ポーランドにおいて優れた映画を製作し続け、人間の尊厳と自由精神の高揚を力強く訴えるとともに、その高邁な作品と情熱的な製作態度で人々に多大な影響を与えてきた世界的な映像作家である。
[受賞当時の部門: 精神科学・表現芸術部門]
アンジェイ・ワイダ氏は、ポーランドの世界的な映画作家として知られる。ワイダ氏は、第二次世界大戦後、この国の映画がめざましい興隆をとげた1950年代後半に、『地下水道』、『灰とダイヤモンド』等を製作し、いわゆるポーランド派活動の先頭に立った。以来、豊かな感性と緻密な構成力を駆使して、常に優れた作品を発表し、映画芸術の発展に大きく貢献した。
1926年3月6日、ポーランド北東部のスワルキに生まれたワイダ氏は、13歳でドイツ軍の祖国侵略にあい、16歳のころから反ナチズム抵抗運動に参加した。解放後はクラフクの美術アカデミーで絵画を学び、ウッジの国立映画大学で演出を学んだ。1954年卒業後、『世代』、『地下水道』、『灰とダイヤモンド』の抵抗3部作とよばれる連作で、戦中戦後の祖国同胞の悲惨な体験に題材をとり、戦うこと、生きることが人間をどのように動かしてゆくかを鮮烈な映像に刻み、世界的な反響をよんだ。これらをリアリズム系列とよぶならば、ワイダ氏はまたロマンティシズムの系列とよぶべき作品があって、『夜の終わりに』、『白樺の林』、『ヴィルコの娘たち』などで青春の傷みや安らぎをうたった。さらにまた、『灰』、『天国の門』、『約束の土地』、『ダントン』等では、時代をさかのぼって人間の欲望と挫折を描いた。
作風も題材も幅広いワイダ氏の作品を一貫して流れるものは、心に目標を持つ人間の、大いなる困難に立ち向かって努力する姿であり、それによって人間性の深奥に迫ろうとするが、そのことはワイダ氏自身の作家的姿勢とも深くかかわっている。また、『大理石の男』や『鉄の男』には、この国の政治体制や社会の変革を人々がどのように生きたかを訴える力強い発言がある。常に変わらぬ創作活動は、フランスでの『ダントン』、ドイツでの『ドイツの恋』等の外国での映画製作にも及んでいる。
アンジェイ・ワイダ氏の功績は、その作品経歴が示すように、戦後ポーランドにおいて優れた映画を製作し続け、人間の尊厳と自由精神の高揚を力強く訴えてきたことにあり、その高邁な作品と情熱的な製作態度は、人々に多大な影響を与えてきた。近年の政局の下でポーランド映画人協会会長、フィルム・ユニットX(イクス)代表の公職を退いたが、それによってさらにワイダ氏は自らの自由な精神の高揚を果たすことができるにちがいない。
ワイダ氏は演劇にも映画と同等の情熱を注ぎ、特にドストエフスキー作品の演出家として高い名声を得ている。昨年満60歳を迎えたのを記念して国内各地で、『ワイダ演劇展』や『ワイダ映画30本展』が開かれた。近年、『愛の記録』のあとフランスでの『悪霊』の映画化が決定し、今後の芸術活動にも大きな期待が寄せられる。
プロフィールは受賞時のものです