George Evelyn Hutchinson
第2回(1986)受賞
生物科学(進化・行動・生態・環境)
/ 陸水生物学者
1903 - 1991
イエール大学 名誉教授
世界各地の湖沼の研究で知られ、生態学の各分野に卓抜なアイデアを提出し、多くの後継者を育て生態学全体を進歩させた第一人者であり、生物学・物理化学を合わせた総合的な陸水学の樹立に大きく寄与した。
[受賞当時の対象分野: 生物科学(行動・生態)]
生物と環境の総合的研究である生態学は、前世紀に近代科学の1部門として確立し、今世紀に入るとその研究対象がひろげられ、また方法論も著しい発展をとげた。こうして、生態学研究の重要性は、ますます強く認識されて今日にいたっている。ハッチンソンは、生態学の各分野に卓抜なアイデアを提出し、多くの優れた後継者を育て、生態学全体の発展に貢献した第一人者である。とくに戦後には、米国生態学界を代表する学者として幅広い業績があるが、なかでも個体群の動態と種の多様性の意義や生態的地位の分析に関する論著は、生態学の発展に重大な基盤を与えた。
初期には、世界各地の湖沼の研究で知られ、生物学・物理化学を合わせた総合湖沼学の樹立に寄与した。とくに、E・S・デービーらと協力して湖沼の堆積物の分析とその歴史的変化の過程を理論化し、古生態学の一分野としての古陸水学を発展させた業績は著しい。
中期には、A・ティーネマンが論じた生物生産の観点から生態系を研究する、生産生態学の発展に寄与した。ハッチンソンは、弟子であるR・L・リンデマンを指導し、植物、動物、微生物を含む生態系の栄養段階間のエネルギー転換の効率を論ずる栄養動態論の理論化に貢献した。
戦後は、わが国の生態学研究にも大きな影響を及ぼしたオダム兄弟を指導して、生態系を無機物まで含めて、エネルギー流転の立場から総合的に研究する生態系生態学の基礎を築いた。さらに、数理生物学者R・H・マッカーサーを見出して学界の注目を浴び、生物間の相互作用のもとで個体数の変動を数理科学的に分析するなどの理論生態学に発展の基盤をつくったのも、ハッチンソンであった。
以上のように後進に対する指導と影響はきわめて大きかったが、ハッチンソン独自の生態的地位論は、その後の生態学の発展に重要な基盤を提供した。生態的地位の概念は、J・グリンネルやC・S・エルトンが提唱したものであるが、ハッチンソンは、生物群集における種の地位を厳密に計測可能な形で、さまざまな環境条件に対する個体群の対応能力と定義し、さらに基本的地位と実現的地位とを区別して、その差異から異種個体間の相互作用を測定する意義を指摘した。
このようにして、ハッチンソンは、生態学の二大分野である個体群生態学と群集生態学の橋渡しに大きな貢献をした。この考えは、今日の機能生態学や進化生態学の基盤の一つともなっている。
プロフィールは受賞時のものです