Akira Kurosawa
第10回(1994)受賞
映画・演劇
/ 映画監督
1910 - 1998
「羅生門」など長年にわたり多くの優れた作品を重ね、その鋭い人間洞察、きわめて人道的な主題、力強く斬新な表現などにより、観るものに深い感銘を与えてきた世界的に注目される映画監督である。
[受賞当時の部門: 精神科学・表現芸術部門]
黒澤明氏は、半世紀にわたって優れた作品を発表し続け、その鋭い人間に対する洞察力、全作品に流れる確固たるヒューマニズム、力強く斬新な表現などによって、見るものに深い感銘を与えてきた、日本の世界的な映画監督である。
黒澤氏は、初め画家の道を歩み、非凡な才能を示したが、後に映画監督に転じた。
1943年の第一作以来、黒澤監督は、人生に対し力強く闘う人間を、好んで題材に取り上げてきた。代表作「生きる」「七人の侍」の主題は、いずれも、厳しい試練にさらされながら、正義感、使命感、死を恐れぬ勇気をもって、強く生きる精神の強さ、崇高さを鮮烈に表現した。また、「羅生門」は、日本映画が世界の注視をあびた、最初の記念すべき作品となった。その話法、事件の取り扱いの斬新さによって、世界の映画に大きな影響を与えた。黒澤氏は、素材を広く世界に求めたが、シェークスピアやドストエフスキー、アメリカのテレビドラマに至るまで、すべて日本的風土に移し替え、人間の本質を追求するドラマを創った。
黒澤氏の作品の特色は、また、その独創的な表現にある。「羅生門」の藪の中の炎暑や、「七人の侍」の豪雨の決闘場面など、その描写は、しばしば激しい表現をとり、それが主題と深く結びついて、劇的な効果を上げた。画家としての豊かな才能は、モンタージュ手法を効果的に用いる等、一作ごとに新しい造形美を生み出し、他の追随を許さぬ黒澤スタイルを確立した。
黒澤氏の作品が、国際映画祭で数多く受賞したことは、その高い国際的評価を裏付けるのである。それのみならず、作品にみなぎる力強い主題や豊かな表現は、世界の多くの映画作家を刺激し、その創作に大きな影響を与えたことは、注目に値する。
このように、高い芸術性を保持するとはいえ、何といっても、黒澤氏の作品の魅力は、あくまで映画の楽しさを堪能させたところにある。
黒澤氏は84歳の今日、なお第一線にあり、新しい境地を示す映画制作への情熱を保ち続けている。まさに20世紀の映画作家の頂点に立つ人であり、京都賞精神科学・表現芸術部門の受賞者として最も相応しい。
プロフィールは受賞時のものです