Chushiro Hayashi
第11回(1995)受賞
地球科学・宇宙科学
/ 宇宙物理学者
1920 - 2010
京都大学 名誉教授
原子核から流体力学に及ぶ基礎物理学の知識・手法を宇宙現象の解析に導入し、星の進化や、太陽系起源などの研究により、天体の諸現象を理論的に解明し、現代宇宙物理学の発展に多大な貢献をした。
林忠四郎博士は、原子核から流体力学に及ぶ基礎物理学の広範な知識・手法を宇宙現象の解析に導入して星の進化や太陽系の起源などの研究に新しい局面を開き、天体の諸現象を理論的に解明することにより、現代宇宙物理学の発展に多大な貢献を成し遂げた。よく知られているように、宇宙物理の扱う対象は、惑星や星といったわれわれが宇宙に見ているなじみの深いものである。しかし、宇宙現象の進化のタイムスケジュールは極めて長いので、観測された対象は、さまざまな進化段階のスナップショットにすぎない。観測で得られた多数のスナップに基礎物理学理論による順序づけをほどこして、星の形成から進化までの一貫した理論を構築した博士の業績は、世界的に極めて高い評価を得ている。
博士は、1950年代から星の進化過程を大局的に理解する解析を行うことにより、星の形成理論にかかわる数多くの先駆的な業績を残している。星の進化理論においては、星の内部構造論および原子核反応論をもとに主系列星をはじめ巨星、白色矮星などの構造ならびに進化を明らかにすることに成功した。特に1962年に発表された論文“Evolution of the Stars”は、その後の世界の恒星進化の研究者にとって長くバイブル的な出版物となっていた。博士の研究によって、星の進化の大筋が理論的に完全に解明されたといっても過言ではない。星の形成理論では、星の誕生時には活動が非常に激しくなり、光度が主系列に達した後よりも数十倍以上明るくなる時期があることを発見した。星の生まれつつあるこのような段階は「林フェイズ」と呼ばれ、よく知られた基礎概念となっている。
さらに太陽系形成理論において、われわれのいる太陽系などの恒星・惑星系がどのように誕生したかを理論的に解析した。これは太陽系起源の「京都モデル」と呼ばれ、天文学と地球惑星科学を結ぶ広い領域で重要な役割を果たしている。最近、電波や光学・赤外線望遠鏡および検出器の飛躍的進歩により、太陽系以外の惑星形成領域の観測が可能となっており、それによってもたらされた事実は、博士の構築したモデルを新たに検証するものが多い。
このように、博士は宇宙物理学に新しい統一的な知見をもたらし、宇宙の基礎的構成物である星と惑星の一貫した理論を構築することに成功した点で、今世紀を代表する宇宙物理学の巨人である。また、これらの研究の過程で、多くの優れた研究者を育成したことも高く評価されており、博士は第11回京都賞基礎科学部門地球科学・宇宙科学の分野の受賞者に真に相応しい。
プロフィールは受賞時のものです