Mario Renato Capecchi
第12回(1996)受賞
生命科学及び医学(分子生物学・細胞生物学・システム生物学等)
/ 分子遺伝学者
1937 -
ユタ大学 教授
今日、生物学において世界で広く用いられているジーンターゲティング法(標的組み換え法)を開発し、任意の遺伝子の機能を欠いたマウス、いわゆるノックアウトマウスを作成して、その遺伝子の働きを研究する道を確立するなど、生物学、医学、農学などの生命を研究する科学に計り知れない恩恵を与えた。
[受賞当時の対象分野: 生命科学(分子生物学・細胞生物学・神経生物学)]
マリオ・レナト・カペッキ博士は任意の遺伝子の機能を欠いたマウス、いわゆるノックアウトマウスを作り出し、その遺伝子の機能を研究する道を確立した。この研究法は現在広く世界で用いられており、生物学、医学などの生命科学に計り知れない恩恵を与えている。
医学、生物学において、ある遺伝子の機能を解明するためには、その遺伝子に変異を生じた変異体を作成し、行動や機能などを調べる手法が大変有用である。博士はDNAの一部に変異を挿入した遺伝子を動物細胞内に導入すると、細胞内の染色体上にもともと存在していた相同の部位と置き換り(相同組み換え)が起こることを明らかにし、その頻度を上げると同時に、非相同組み換えを起こした細胞を排除する手法を開発した。この方法はジーンターゲティング法(標的組み換え法)と呼ばれ、これまで夢のような話であった脊椎動物の任意の遺伝子に、任意の変異をもつ個体を得る道を拓き、その遺伝子の機能を確かめることを可能にした。これは医学、生物学にとり革命的な方法であり、生命科学の研究における大きなブレークスルーとなった。
博士はこの方法を用いて、任意の遺伝子の機能を欠いたノックアウトマウスを効率よく作成する方法を確立した。このノックアウトマウスの実用化により、発生生物学には新しく広大な研究分野が拓かれ、またリセプターやシグナル伝達、細胞の機能調節などに関わる多くの脊椎動物の遺伝子の働きの解明が大いに進むとともに、遺伝病や癌をはじめとする様々な疾患のモデル動物の開発により、それらの治療の研究が非常に活発になっている。更には、動植物の品種改良などの応用にも無限の可能性を秘めるもので、学術上のみならず社会的にも非常にインパクトの大きい業績といえる。
以上のように、カペッキ博士は今日の生命現象の研究に新しい局面を開き、生命科学の飛躍的な発展に大きく貢献しており、よって、基礎科学部門の第12回京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです