Daniel Hunt Janzen
第13回(1997)受賞
生物科学(進化・行動・生態・環境)
/ 熱帯生物学者
1939 -
ペンシルヴァニア大学 教授
熱帯生物学の草分けとして、被食回避のための共生や生物多様性の成立要因としての捕食者仮説などを提出し、熱帯生態学の興隆に大きく寄与するとともに、専門知識を生かして熱帯における生物、あるいは環境の保全にも大いに活躍している。
ダニエル・ハント・ジャンセン博士は、主に中米コスタリカの熱帯林で研究を続け、熱帯生物学の興隆の基礎を築き、その重要性を学界に問い、興味溢れる学問分野の扉を開いた生物学者である。同時に、熱帯林についての該博な専門知識を生かして、その環境保全のための活動をおこなってきた。
近年、熱帯生物に関する研究成果は、熱帯域のいくつかの施設における集中的な調査によって集積され、熱帯林を構成する膨大な生物種の実態やそれらの相互関係が解明され、生態系の把握と進化についての考察が進められるようになったが、博士はそのパイオニアであり、最も積極的な推進者であった。
博士はアカシアとアリの被食防衛共生の実証や、熱帯の生物多様性成立要因としての捕食者仮説の提唱を通じて、1970年代の多種共存問題に大きな刺激を与え、熱帯生態学の発展を促した。またハチとランの共生系の研究や、植物が同時に開花結実するのは、種子食動物を飽食させて生き残りをはかるためだとする種子捕食回避説、熱帯の河川の水がどうして褐色になるのか、同種の樹木の近接することのない分布様式などの現象に、独自の仮説を提示して熱帯生物学を牽引してきた。
1980年代半ばからは、博士はコスタリカ太平洋岸のグアナカステの森と牧場跡地を国立公園化する事業を進め、熱帯の生物多様性存続の危機を訴えた。さらにリオデジャネイロでの「地球サミット」に先立つ1991年に、生物目録作成の「国立生物多様性研究所」(INBio)を設立させ、現地研究者や技術者を育成しつつ国内各方面から標本を集め、「生物多様性科学国際研究計画」(DIVERSITAS)を推進中である。
以上、博士の先駆的な研究と刺激的な論考、それに基づく活動は、生態学のみならず生物学の広域の発展に貢献するとともに、今日の環境問題にも寄与するところが非常に大きい。よって、ジャンセン博士に基礎科学部門の第13回京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです