Kiyosi Itô

第14回(1998)受賞

基礎科学部門

数理科学(純粋数学を含む)

伊藤 清

/  数学者

1915 - 2008

京都大学 名誉教授

記念講演会

確率論と歩いた60年

1998年

11 /11

会場:国立京都国際会館

ワークショップ

確率解析から数理ファイナンスまで-20世紀確率論の展開

1998年

11 /12

13:10~17:20

会場:国立京都国際会館

業績ダイジェスト

諸科学への広範な応用をもたらした確率微分方程式論の創始による確率解析学への多大な貢献

確率解析の研究、特に確率微分方程式論の創始により、自然や社会における偶然的要素を持つ運動や現象の研究に画期的な進展をもたらし、数理科学のみならず、物理学、工学、生物学、経済学の諸分野の発展にも大きな貢献をした。

[受賞当時の対象分野: 数理科学]

贈賞理由

伊藤博士は確率解析の研究、特に確率微分方程式論の創始により、自然や社会における偶然的要素をもつ運動や現象の研究に画期的な進展をもたらし、数理科学のみならず、物理学、工学、生物学、経済学の諸分野の発展にも大きな貢献をした。

花粉の微粒子について植物学者ブラウンによって最初に観察された粒子のブラウン運動は、20世紀になると、アインシュタインやペラン等の物理学者により研究が進められた。これらの研究を背景として、1923年にウィーナーがルベーグ積分の概念に基づき経路空間上の確率として数学的基礎を築いたことにより、確率解析の歴史が始まった。伊藤博士は1942年、確率積分の概念と、それにともなう解析学を基礎から始めて理論の再構築を行い、偶然の要因をもつ運動を定式化した確率微分方程式論を創始した。この理論の出現により、その後の確率解析研究は飛躍的な発展を遂げた。

確率微分方程式は、ブラウン運動をはじめとする偶然性に支配される運動の連続的な軌跡を記述する運動方程式であり、その解によって一般の拡散運動を記述する経路空間上の確率が構成されるものであるが、1950年頃から偏微分方程式論、ポテンシャル論、調和積分論、微分幾何学、調和解析など広範な数学での研究、および理論物理学との関連で新たな展開がなされていった。

今日では、多くの研究者により経路空間上における微分積分学が確立され、漸近理論や、微分幾何学の再構築が試みられるに至っているが、博士の理論は、今日なお確率解析の基本的な部分として生き続けている。

また、この理論は偶然性をともなう現象の解析において、数学以外の多くの分野にも応用されるようになり、現在、物理学を始め、集団遺伝学、確率制御理論などの自然科学の分野のみならず、経済界における数理ファイナンスなどでも「伊藤解析」を使って計算するのが常識化している。実際、金融の現場ではそれは「伊藤の公式」としてよく知られている。

このように、20世紀における確率解析の体系的発展の端緒を作り、その後の発展において常にその中心として活躍した伊藤博士の業績は、数学としての内容の深さ、および他分野とのかかわりの広さにおいて特筆すべきものがあり、まさに今世紀を代表する数理科学の基礎理論のひとつというべきものである。 よって、伊藤博士に基礎科学部門における本年の京都賞を贈呈する。

プロフィール

略歴
1915年
三重県に生まれる
1938年
東京帝国大学理学部数学科卒業
1939年
内閣統計局
1943年
名古屋帝国大学理学部 助教授
1945年
博士号取得 東京帝国大学
1952年
京都大学 教授
1954年
プリンストン高等研究所 研究員
1966年
オールフス大学 教授
1969年
コーネル大学 教授
1976年
京都大学数理解析研究所 所長
1979年
学習院大学 教授
1979年
京都大学 名誉教授
主な受賞・栄誉
1978年
朝日賞
1978年
恩賜賞、学士院賞
1985年
藤原賞
1987年
ウルフ賞、イスラエル
2006年
ガウス賞
フランス科学アカデミー外国人会員、日本学士院会員、パリ第6大学名誉博士、スイス連邦工科大学名誉博士、ワーリック大学名誉博士、全米科学アカデミー外国人会員
主な論文
1942年
On stochastic processes (1) (infinitely divisible laws of probability) , Japanese Journal of Mathematics 18, 1942.
1951年
On a formula concerning stochastic differentials, Nagoya Mathematical Journal 3, 1951.
1951年
On stochastic differential equations, Memoirs of the American Mathematical Society 4, 1951.
1965年
Diffusion Processes and Their Sample Paths, Grundlehren der Math. Wiss. 125 (with H. P. McKean, Jr.) Springer-Verlag, 1965.
1987年
Selected Papers (D. W. Stroock and S. R. S. Varadhan, eds.) Springer-Verlag, 1987.

プロフィールは受賞時のものです