Walter H. Munk
第15回(1999)受賞
地球科学・宇宙科学
/ 海洋学者
1917 - 2019
カリフォルニア大学スクリップス海洋研究所 教授
50年あまりにわたる研究活動によって海洋の種々の波動と潮汐、及び海洋大循環の力学の解明に画期的前進をもたらし、また、大気や海洋が地球自転の変動に及ぼす影響を初めて明らかにして、この分野の研究に新しい時代を開くなど、海洋の研究を中心に、20世紀後半の地球科学に大きな影響を与え続け、その発展に多大な貢献をした。
ムンク博士は、50年余にわたり、海洋物理の多くの優れた先導的研究を行い、海洋科学に大きな影響を与え続け、その発展に多大な貢献をした。
博士は、スベルドラップ博士とともに、波浪の発生、発達機構について先駆的な研究を行い、ランダムな波浪の周期と波高を統計的な代表値で表して、その変化を予測する波浪予測理論を世界で初めて開発した。このモデルは、その後の波浪予測発展の基礎となり、今日の波浪予報の中に生き続けている。また、海面のちりめん状の波で反射した太陽光の観測から、海上風と波の特性の関係を求め、現在の人工衛星からの電波による海上風リモートセンシングの基礎を築いた。
博士はまた、黒潮など世界の主要な海洋大循環は、海上を吹く風で駆動され、地球自転の効果と水平乱流を通した陸岸摩擦の効果で決まることを示し、観測された風の分布にもとづいて、亜寒帯環流から赤道海流に至る現実の海流分布を見事に説明した。その中でも、よく知られている「環流」(ジャイヤ)は博士の生み出した用語であり、また、ムンクレイヤーと呼ばれる大洋の西岸に集中した強い流れの機構を明らかにするなど、現在につながる風成海洋循環理論の枠組みを作り上げた。その後、博士は海洋における内部重力波の動態の研究を行い、普遍的に適用できる時空スペクトル形を発見した。この発見は研究者たちに強いインパクトを与え、スペクトル形の起源に関して今も議論が続いている。
博士の研究対象は固体地球の物理学にもおよび、海底掘削による地球マントルのサンプリングを提案した。これはモホール計画を経て、現在の大洋底掘削計画(ODP)などー連の国際的なプロジェクトに発展し、地球物理学、地球の歴史の研究を進める上で新しい展開をもたらしている。また、大気や海洋の運動の影響による地球自転の不規則性を初めて明らかにするなど、この問題の研究に新時代を開き、マクドナルド博士とともに著した「The Rotation of the Earth」は、この分野の研究者にとって必読の書となっている。近年、博士は海洋中を伝播する音波を利用した「海洋音響トモグラフィー」による海洋観測を提唱し、その方法を開発している。
このように、ムンク博士は、今日まで地球規模での海洋研究に、卓抜したアイデアをもって常に新しい境地を開くとともに、多くの後進を育て、海洋物理学を中心とした地球科学の発展に大きな功績を残してきた。よって、ムンク博士に基礎科学部門における1999年京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです