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Paul Ricœur

第16回(2000)受賞

思想・芸術部門

思想・倫理

ポール・リクール

/  哲学者

1913 - 2005

パリ大学 名誉教授、シカゴ大学 名誉教授

記念講演会

批判と確信—私の哲学の歩み—

2000年

11 /11

会場:国立京都国際会館

ワークショップ

新しい他者の発見

2001年

11 /12

13:20~17:25

会場:国立京都国際会館

業績ダイジェスト

新しい倫理学の構想を含む壮大な解釈学的現象学を構築した哲学者

反省哲学の伝統に立ちつつ、解釈学的現象学の方法を革新して、神話、聖書解釈、精神分析、隠喩論、物語論と幅広い具体的な領域でテクスト解釈学を展開し、フランスのみならず、英米の哲学界にも大きな影響を与えた。

[受賞当時の対象分野: 哲学・思想]

贈賞理由

リクール教授は、西洋の長い哲学的伝統に立ちつつ、解釈学的現象学の方法を革新し、それまでの哲学が扱わなかった幅広い諸領域、すなわち神話、聖書解釈、精神分析、隠喩論、物語論にまでテクスト解釈学を適用して、現代哲学に新たな局面を切り開いた。

教授は戦後、現象学と実存哲学の研究から出発し、『意志の哲学』(1950‐60年)という総題のもとに『意志の形相論』『意志の経験論』『意志の詩学』を構想して、デカルトに始まる反省的主体の働き、「私は考える」(コギトー)の意味を全面的に回復することをめざした。その後、精神分析の成果や英米分析哲学の手法を取り入れ、かつて自ら研究したフッサール現象学に内在する観念論的傾向を是正し、精緻な「解釈学的現象学」に立った独自のテクスト解釈理論を形成し、その成果である『生きた隠喩』(1975年)では、隠喩がただ単に文学理論の問題であるばかりでなく、人間の在り方そのものに根ざした本来的現象であることを論証した。また、『時間と物語』全3巻(1983‐85年)では、人間が行動の諸条件を時間のなかで筋立てていく歴史的存在であることを明らかにするとともに、哲学的な時間論の可能性についての考察を深めた。さらに、『他者のような〔あるいは、他者としての〕自己自身』(1990年)では、他者に開かれた「自己」を正当に承認する作業を通じて、「正しい制度において、他者のために、他者とともに善く生きること」を目標とする倫理学を構築し、他者を忘れた自我中心主義的閉塞状況にあった現代倫理学に新たな息吹を与えた。

このような画期的業績をふまえたリクール教授の哲学は、一言にして人間的生を通しての「意味創造の哲学」と言える。その哲学は、一方ではディルタイ以来の解釈学、フッサール以来の現象学の伝統に結びつきながら、他方で現代の言語哲学や文学理論との対話を切り開く理論を展開して、哲学のみならず、広く人文科学の領域全体にも大きな影響を与えてきた。哲学の使命は諸科学の総合にあるという本来的理念にたえず立ち帰り、その成果を意欲的に取り入れつつ、言語による実在の記述という哲学の伝統的主題に、文学や歴史といった言説の多様性を尊重しながら接近するリクール哲学は、来るべき世紀の新しい知の可能性を開拓するものである。

よって、リクール教授に思想・芸術部門の2000年京都賞を贈呈する。

プロフィール

略歴
1913年
フランス、ヴァランスに生まれる
1933年
レンヌ大学、学士
1934年
パリ大学入学、教授資格試験の準備
1939年
第二次大戦勃発とともに動員されて捕虜となり、ポーランドの捕虜収容所で過ごす
1945年
国立科学研究所所員
1949年
ストラスブール大学哲学史講師、博士号取得
1956年
パリ大学の哲学教授
1966年
新設のパリ大学ナンテール校教授
1973年
パリ第十大学(ナンテール)教授に復職
1973年
シカゴ大学の神学部教授を兼任、名誉教授
1980年
パリ大学名誉教授
主な受賞・栄誉
1950年
ジャン・カヴァイエス賞
1985年
ヘーゲル賞(ドイツ)
1985年
ゴードン・ライング賞(シカゴ大学プレス)
1988年
フランスアカデミー大賞
1989年
ルーカス賞(ドイツ)
1999年
バルザン賞(イタリア)
主な著書
1950年-60年
Philosophie et la volonte, ⅠⅡⅢ, Paris, Aubier (『意志的なものと非意志的なものⅠⅡⅢ』滝浦静雄他訳 紀伊国屋書店 1993-95), 1950-1960
1965年
De l' interpretation Essai sur Freud, Paris, Seuil (『フロイトを読む-解釈学試論』 久米博訳 新曜社 1982), 1965
1975年
La metaphore vive, Paris, Seuil (『生きた隠喩』 久米博訳 岩波書店 1984), 1975
1983年-84年
Temp et recit, tome ⅠⅡⅢ, Paris, Seuil (『時間と物語』 久米博訳 新曜社 1987-90), 1983-1984
1990年
Soi-meme comme un autre, Paris, Seuil (『他者のような自己自身』 久米博訳 法政大学出版局 1996), 1990

プロフィールは受賞時のものです