Jürgen Habermas
第20回(2004)受賞
思想・倫理
/ 哲学者・思想家
1929 -
フランクフルト大学 名誉教授
現代社会において理論(認識論)と実践(倫理学・社会哲学)とを共に射程に収め、コミュニケーションという行為や討議による合意形成について社会哲学としての論理構築を行い、ありうべき人間社会の姿を描き出してきた。卓越した理論家であるばかりでなく、社会的な実際問題に関しても自らの哲学を基軸に据えて積極的に発言し、社会に多大な影響を与えた。
[受賞当時の対象分野: 哲学・思想]
ハーバマス教授は、現代社会において理論と実践とを共に射程に収め、それらを「コミュニケーション行為」の観点から統合的に理解する道を拓くことによって、ありうべき人間社会の姿を描き出してきた、現代を代表するドイツの哲学者・思想家である。
ハーバマス教授は1962年の著書『公共性(圏)の構造転換』で一躍有名となった。ここで教授は、ヨーロッパ近代市民社会における「市民的公共圏」の成立の歴史を論じ、それがやがて専門家と大衆への二極分化によって変質し、テクノクラートと大メディアの支配下で形式的な大衆民主主義に堕していることを鋭く批判した。この公共圏の概念は、現在もなお活発に論争されており、教授の問題提起の先駆性とその持続的影響力の強さを示している。
教授の社会哲学は、さらに70年代の著書『コミュニケーション行為の理論』に集大成された。ここで教授は、人間には暴力・抑圧に支配されずに対話を交わし、相互理解に到達する「コミュニケーション的理性」の力があるとし、強制や支配のないコミュニケーションによって生み出される合意形成のあり方を追求した。こうした考察を基盤に、普遍的な社会規範の構築をコミュニケーション論の観点から基礎づけようとしたのが「討議倫理学」である。
教授は、討議倫理学の確立を通して生活世界とシステムの接合を図り、著書『事実性と妥当性』を発表した。ここでは立憲民主的法治国家制度を討議倫理学の観点から検討し、手続主義的な法理論と審議的デモクラシーという立場により制度の正当化理論を展開した。
ハーバマス教授の影響は、哲学や倫理学のみならず、社会学、政治学、法学などの各分野に及んでいる。また、その影響は英語圏や仏語圏に留まらず、日本をはじめとするアジア地域にまで広がっており、常に学界や論壇の議論をリードする役割を果たしてきた。
激動する時代にあって、ハーバマス教授は、「普遍主義」の旗を高く掲げ、そこから個人権、政治的自由、民主主義の理念を基礎づけるとともに、人類の未来への肯定的展望を倦まず語り続け、現実の社会・政治問題についても活発な発言を続け、ドイツ・ヨーロッパの政策などに多大な影響を与えてきた。
以上の理由によって、ユルゲン・ハーバマス教授に思想・芸術部門における第20回(2004)京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです