Simon Asher Levin
第21回(2005)受賞
生物科学(進化・行動・生態・環境)
/ 生態学者
1941 -
プリンストン大学 教授
地球上の生物圏の実態を統一的に捉えるため、生態プロセスの空間的諸側面を捉える数理的手法を導入し、「空間生態学」という新分野を確立し、生態学に新しい展開をもたらした。さらに、生態系や生物圏を「複雑適応系」として捉え、新たな視点の環境保全管理法を提唱するなど、環境科学に多大な影響を与えた。
地球上の生物圏には驚くほど多様な生物がいて、太古からの環境の変動に対応しつつ生きてきた。それぞれの種がそれぞれのやり方をとりながら、他の種との競合、協同、捕食、寄生、共生など複雑な関係の中で、物質の動きに関わっている。
そこには生物圏の構成要素である生物たちの間に、著しい多様性というか不均一性が存在し、それらの間の関係はいわゆる非線形的であるとともに、いろいろな形での階層的組織が生じていて、しかもそれら全体が時間的にも空間的にも物質的にも流れており、この複雑な全体が複雑適応系として環境の変動に対応しながら、長い年月を生き抜いてきた。
以前の生態学では、生物たちのこのような面に注目した研究は、断片的なものに留まっていた。レヴィン教授は卓越した数理的解析によってこの複雑な問題に取り組み、地球上の生物圏の実態を統一的に捉える道を拓いて、空間生態学ともいうべき新しい分野を創りだした。
かつて教授はロバート・ペイン博士と協同でパッチ動態理論を提出し、高い生物多様性は、むしろ適度な撹乱があってこそ維持されるという意外な事実を指摘し、さらには互いに競合的、排他的な生物種が空間の広がりによって共存できることを示した。このような初期の業績に始まって、レヴィン教授の理論は生物界における空間的スケールや、組織的スケールによって異なる規則性やパターンの出現を次々に明らかにし、それらを包括的に理解する手法を開発した。そして、それによって、生態系や生物圏という複雑適応系が超有機体ではなく、その保全には新たな視点と理論が必要であることも示すことになった。
教授の卓越した数理的研究のこのような成果を、数式を用いずにまとめた著書”Fragile Dominion”は、われわれ人類も住まうこの地球の行く末を論じたものである。この著書の邦訳には、いみじくも「持続不可能性」というタイトルがつけられている。我々が地球生物圏の持続可能性を願っていることは言うまでもないが、レヴィン教授は、それが脆弱な基盤の上に成り立っていることを明確に示してくれた。それは我々に更なる思索と勇気を迫るものである。その意味でもレヴィン教授の生態学、環境科学に対する貢献は極めて高く評価されるものである。
以上の理由によって、サイモン・アッシャー・レヴィン教授に基礎科学部門における第21回(2005)京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです
レヴィン教授がアメリカ国家科学賞を受賞
第21回京都賞基礎科学部門受賞者のサイモン・A・レヴィン教授(生態学者)が、2016年のアメリカ国家科学賞を受賞されました。同賞は、1959年に創設され、授賞式では米国大統領が受賞者にメダルを授与します。
レヴィン教授がタイラー賞を受賞
2005年京都賞基礎科学部門受賞者で生態学者のサイモン・アッシャー・レヴィン教授が「タイラー賞」を受賞されました。タイラー賞は1973年、世界ではじめて環境に関する国際賞として創設され、環境科学、環境衛生、エネルギーの分野で功績のあった方に贈られる賞です。レヴィン教授は、生物種と生態系の複雑性とその関係を解き明かしたことが高く評価されました。授賞式は4月25日に行われ、賞金20万米ドルが贈られました。