Pina Bausch
第23回(2007)受賞
映画・演劇
/ 振付家・演出家
1940 - 2009
人間の動きの根源的な動機を追及した独自の振付法で、演者と観客双方の感性に肉迫する独創的な作風を確立すると同時に舞踊と演劇の境界線を打破し、舞台芸術に新たな方向性を与えた。
ピナ・バウシュ氏は、人間の動きの根源的な動機を追及した独自の振付法で、演者と観客双方の感性に肉迫する独創的な作風を確立すると同時に、舞踊と演劇の境界線を打破し、舞台芸術に新たな方向性を与えた振付・演出家である。
1973年以来ヴッパタール舞踊演劇団の芸術監督として、世界的な活動を続けているバウシュ氏は、その初期、ドイツ表現主義舞踊の、社会と個人の現実を追及するスタイルを継承しつつ、モダンダンスの新しい身体・舞台表現を融合していった。この時期の代表作、1975年の『春の祭典』で彼女は、「豊穣を願うため犠牲として選ばれた女性が死に至るまで踊り続ける」というストラヴィンスキーのコンセプトを忠実に再現し、全体と個人、残虐性と麻痺、陶酔と恐怖などのテーマを鮮烈に描き出してみせた。
更にバウシュ氏は、人間の内面から沸き上がって肉体を突き動かす力を追求し、動きの意味や理由を重視する独自の演劇的手法を確立した。1976年以降の『カフェ・ミュラー』、『コンタクトホーフ』等に観られるように、作品には言葉、歌、日常の仕草さえもが意味を持つ動きとして取り入れられている。土や水、植物や動物など、自然の産物を大胆に取り入れた舞台美術とも相まって、バウシュ氏は舞踊演劇の創始者として広く認知されるに至った。1986年ローマに滞在して創作した『ヴィクトール』を皮切りに、バウシュ氏は様々な国の都市で「国際共同制作」を開始し、異なる文化、価値観などとの接触を作品に反映させ続けている。
バウシュ氏の作品の主なテーマは、孤独や疎外、男女間の葛藤、個人と社会の対立、自然と人間の関係などであり、それらは現代に生きる人々の普遍的かつ切実な問題に他ならない。ダンサーたちとの1ヶ月にもわたる綿密な対話から作り上げられる作品は、見る者の記憶や感性を直接に刺激し、従来の舞踊作品とは別格といえるほどの激しい反応を引き起こす。既成の世界観は崩壊し、観客は新たな現実と真実の認識を迫られるのである。舞踊と演劇の境界線を打破したバウシュ氏は、舞踊に、社会と時代を映し出すメディアとしての新たな可能性を示し、更にその結果、舞踊のみならず、舞台芸術全般に新たな活力を与えた。
以上の理由によって、ピナ・バウシュ氏に思想・芸術部門における第23回(2007)京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです