第35回(2019)
科学の発展と人類の精神的深化に卓越した貢献をされた、京都賞受賞者の方々のお話を間近で聴くことができる講演会です。 研究内容・業績についてはもちろん、「人生観」「価値観」「考え方」など、受賞者の方の人柄に触れられる、貴重な機会です。ぜひお気軽にご参加ください。
2019年
11 /11 月
13:00〜16:00
第35回(2019) 京都賞受賞者
講演テーマ
有機ELディスプレイ技術の進化
講演要旨
私が有機発光ダイオード、すなわち有機EL素子に最初に関わったのはコダック研究所でした。私は1975年に化学の研究者として雇用され、高効率で低コストの光電変換用太陽電池の開発の仕事からキャリアがスタートしました。具体的に言うと、シリコンなどの無機半導体に代わる太陽光発電材料に有機色素や有機顔料を使用する研究を任されました。このプロジェクトに3年近くを費やしましたが、実用に必要な素子性能にはまだ遠く及びませんでした。しかし、ちょうど私が苛立ちから他のプロジェクトに移ろうとした時の事、文字通り光が見えたのです。粗雑な構造の太陽電池が過電流で駆動したときに出る光を見たのです。こうして私は、光から電気へ変換する太陽電池とは逆方向のプロセスに焦点を当てた新しいプロジェクト、すなわち、電気から光への変換に従事することになりました。私はこの発見が数十年後に最高のディスプレイ技術になるとは思いもよりませんでした。 この発見からほぼ10年が経った1987年、私はApplied Physics Letters誌に(Steve Van Slyke氏と共著)で論文を発表し、有機発光ダイオード(当論文では有機ELダイオードと呼称)の二層構造、材料構成、素子性能を論じました。電気から光への高い変換効率を達成する鍵は実は二層構造にあるということがわかったのです。有機ヘテロ接合としても知られるこの構造の有用性は、有機太陽電池についての私の以前の研究で最初に確認されていました。二層構造では電荷の生成(太陽電池の場合)や再結合(有機EL素子の場合)という、励起子によるプロセスが二層の界面のみに限定されるため、それらのプロセスが大幅に強化されます。有機EL素子の場合、電極での非発光再結合を最小化しつつ、二層の界面での発光再結合を最大化することで効率向上が得られます。この画期的な論文を契機に、ディスプレイ用途向けの有機EL素子開発にむけた研究が世界中で起こることとなったのでした。 ディスプレイ技術はこの数十年で急速に向上し、ブラウン管からフラットパネルディスプレイに進歩しました。さまざまなフラットパネルディスプレイの中でも、これまで液晶ディスプレイが主要技術でしたが、近年の高性能有機ELディスプレイの登場でそれが変わりました。その数多くの特性により、有機ELはこれまで開発されたディスプレイ技術の中でも最高の技術を誇るまでになりました。この講演では、発見から商品化までの有機ELの発展を私の個人的な観点から辿ります。
講演テーマ
宇宙とそこに在るもの —広域観測を通して理解する
講演要旨
天文学者らは数千年間もの昔から天上の姿を描き続け、恒星や惑星の位置を記録し、その明るさを推定してきました。天体の物理が理解される以前には、このような図やカタログ(天体の情報をまとめたリスト)は主に宗教、航海そして暦のためのものでした。しかしティコ・ブラーエが極めて正確なカタログを完成させると、それを使ってケプラーは太陽系の軌道形状を明らかにし、ニュートンは惑星の軌道を重力の理論で説明することができました。天文学が物理学になったのです。 今では天文学はもっぱら天体の物理学と化学です(不思議に思われたかもしれませんが、不思議なことはまだまだ沢山あるのです)。研究には主に2種類があります。一方は、1つまたはいくつかの天体の特定の性質を調べ、それぞれがどのように機能しているのか理解する研究、他方は、大規模サーベイによりデータを収集し、天体の集団全体や、宇宙全体の物理構造を調べる研究です。これが私の研究者人生の骨子を成すと言っても過言ではなく、この講演で論じるテーマです。 宇宙には銀河が多く存在します。銀河は恒星、ガス、塵、そして星が死んだ後に残す奇妙な物体の集合によってできています。銀河は集まって銀河群や銀河団となります。これは宇宙最大の集合体です。我々の銀河系のような銀河には普通千億ほどの恒星があり、観測可能な宇宙は千億規模の数の銀河を含んでいます。このように膨大な数の天体が存在しているので、いかなる種類の天体でも、1つ1つ研究するのは難しいものです。そこでサーベイでは、天体の性質のうち、統計的に扱えるものを調べるように設計されています。そのため、ある集団の中の様々な天体のサーベイを行うことにより、多くの代表的な天体で分かったことをその集合全体に拡張することが出来るようになるのです。私が立ち上げ、プロジェクト研究員として長年携わったスローン・デジタル・スカイ・サーベイは、このような研究を近傍宇宙について行いました。 光は有限の速度で進むため、極めて遠い(そして暗い)天体の集合を研究することにより、宇宙の中にある天体が遥か昔にどのようなものだったのかを見ることが出来ます。日本のすばる望遠鏡のような大きな望遠鏡によって現在行われているサーベイは、この宇宙の進化と発展の歴史の書を開いてくれるでしょう。
講演テーマ
この賞は誰に贈られたのか?
講演要旨
「われわれは夢と同じ素材でできている……」 (シェイクスピア『テンペスト』より) それでは、京都賞ほどの立派な賞をいただく今回の受賞者は、いったいどんな素材でできているのでしょうか?誰がわたしを作ったのか?無数のどんな夢想者たちの、どんな夢からわたしは生まれたのか?誰がわたしを生みだしたのか?そうしたいとも思わず、そうするとも分からず。まったくわたしを知らないのに。わたしより何百年も前に。あるいは、何千年も前に。わたしよりずっと前に、わたしより以上に、この賞を受けてしかるべき人がいたのではないか?これら無数の、有名無名の、しかるべき受賞者たち、その人びとを、いかにして思いだし、いかにしてここに呼びだすか?いかなる名前で呼び、どのようにしてその価値を正当に認めればよいのでしょうか? どんな乳で、どんなパンで、わたしは養われたのか?そして、とりわけ、その乳を誰がしぼり、そのパンを誰がこねたのか?材料の小麦はどこの大地で育ったのか?その麦を誰が収穫したのか?どんな太陽のもとで?わたしを守ったのはどんな国で、わたしを培ったのはどんな国々なのか? わたしを生みだした女たちと男たちは、たがいの存在を夢にも知らずわたしを生みだしたのですが、その女たち、男たちとは誰なのか?わたしがわたしであるのは、誰のおかげなのか?誰に感謝すべきなのか、あるいは、誰を呪えばいいのか? わたしの感謝と、わたしの困惑と、場合によっては、わたしの恐怖とを表明するにあたって、数かぎりない、いかなる足跡の上から、わたしはそれを始めるべきなのでしょうか?この不完全で小さなわたしに至るこれらすべての道すじは、ほかのあらゆる人の場合と同じく、世界全体におよぶ網の目を描きだしています。この講演の言葉を記すために、これからわたしが再発見し、調査し、読み解かなければならないのは、この無数の道すじなのです。そんな講演をおこなうことでわたしはひどく怖じ気づいていますが、この恐ろしい責務には、それらの道すじを探求し、確認し、感謝することに向かうという美点があることも認めなければなりません。わたしに賞を授与することは、じつは、何百人もの、いやもしかしたら何千人もの女たちと男たちに、この心やさしく豪華な賞をあたえることではなかったでしょうか?このすべてをわたしは誰のおかげで得ることになったのか?これらの恩恵、この愛情あふれる周囲の人びと、この心安さ、この贅沢、この美、この洗練、この敬意を、わたしは誰のおかげで得たのか?誰の、どれほど多くの人びとの、汗と、気力と、勇敢さと、犠牲と、献身と、根気と、粘り強さと、天才と、啓示のおかげなのでしょうか? 女であるわたしが自由に生き、自由に演劇を披露し、これほどの名誉を受けることができるために、どれほど多くの闘いと死者たちが必要だったことでしょうか? (訳:中条省平)
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