Edward Witten
第30回(2014)受賞
数理科学(純粋数学を含む)
/ 理論物理学者
1951 -
プリンストン高等研究所 教授
今日まで30年以上に亘って超弦理論の飛躍的進化の過程において指導的役割を果たすことで理論物理に貢献しただけでなく、物理的直感と数学的技法を発揮して新しい数学を開発することによって多くの最先端の数学者の研究を触発した。その功績は他に類がなく傑出したものである。
場の量子論と弦理論の発展の歴史は、一般相対性理論と量子力学の折り合いという問題から出発して微視的素粒子論から巨視的宇宙論に及ぶ、すべての力学を統一する理論を夢みた多くの才能溢れる科学者達が多彩に活躍する壮大なドラマである。新しい素粒子の発見、さらに革新的な力学理論を追求する研究の魅力は格別である。その発展の過程で、特に過去30年に亘ってエドワード・ウィッテン博士が果たした役割は他に類がなく、大きい。
1984年の「第一次超弦理論革命」と呼ばれる超弦理論の大きな進展において、ウィッテン博士によるゲージ場や重力場におけるアノマリーの幾何学的分析は、重要な動機となった。またウィッテン博士は、弦のコンパクト化の研究によって超弦理論と素粒子標準模型との関係を数理的に解明する道筋を示した。さらに1995年にウィッテン博士は、それまでそれぞれ特徴をもって構築されていた5つの異なる10次元超弦理論を1つの理論に統合するM理論を提唱して、「第二次超弦理論革命」の勃発に指導的役割を果たした。
ウィッテン博士の功績は理論物理学者としての業績だけにとどまらず純粋数学に対しても著しい貢献があった。優れた物理的直観と高度な数学的技能をもって多数の数学者の新しい研究を触発した。微分幾何学のモース理論の再構成、カラビ‐ヤウ多様体を用いる弦のコンパクト化などにより、新しい幾何の研究テーマを誕生させた。チャーン‐サイモンズ理論と結び目理論のジョーンズ多項式との関係を解明し、その両者に新しい見方を与えた。他にも、超対称性ゲージ理論の低エネルギー解とそのトポロジーへの応用(いわゆるザイバーグ‐ウィッテン理論)、ゲージ理論の双対性の理論的検証(いわゆるバッファ‐ウィッテン理論)とその幾何学的ラングランズ・プログラムとの関係の指摘、グロモフ‐ウィッテンの不変量の創出やミラー対称性の研究による新理論の触発など枚挙に暇がない。このような最先端の純粋数学に対する独創的貢献は、数学界からも高く評価されている。 1970年代には理論物理学者と数学者との関係が余りにも疎遠になったというフリーマン・ダイソン博士の嘆きがあった。しかし1980年以後、純粋数学と理論物理との交流にルネサンスが始まったとの国際的認識がある。その意味でもウィッテン博士の功績は正に傑出したものであった。
以上の理由によって、エドワード・ウィッテン博士に基礎科学部門における第30回(2014)京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです