Toyoki Kunitake
第31回(2015)受賞
材料科学
/ 化学者
1936 -
公益財団法人 北九州産業学術推進機構 理事長
人工分子から生体膜の基本構造である二分子膜が自己組織的に形成されることを世界ではじめて報告し、更にこれが広範な有機溶媒中の両親媒性化合物に起こる普遍的な現象であることを見出した。またこれらの体系化と様々な合成技術の開発により、分子組織化学という新たな学問潮流の創出に本源的に貢献した。
國武豊喜博士は、1977年に人工分子から生体膜の基本構造である二分子膜が自己組織的に形成されることを世界ではじめて報告した。その後の一連の独創的な研究によって、二分子膜の形成が広範な分子構造を有する両親媒性化合物について、水中のみならず有機溶媒中においても認められる普遍的な現象であることを確立した。このように、合成二分子膜の形成機構を独自の研究理念を通じて体系化し、さらに二分子膜固定化技術ならびに自己組織化材料創製技術を開発して、今日、隆盛を極める分子組織化学という新たな学問潮流を生み出すことに本源的な貢献をなした。
國武博士による合成二分子膜の研究は、「生体膜のような分子レベルの秩序組織構造は生体脂質によってのみ形成される」とする考えを覆す業績であり、自己組織化によって階層的に生み出される分子組織構造ならびにその物性と構成分子の構造の相関を、分子デザインに基づいて理解することを初めて可能にした。分子の自己組織化を水中のみならず有機媒体中にも拡張したことにより、それまでの両親媒性の概念を、より一般的な上位概念である「親媒性/疎媒性」に書き換えた。また二分子膜中において、高度な秩序構造に由来する特異的な官能基間相互作用が発現することを明らかにし、それらを分子レベルで制御する分子組織化学の基本概念を確立した。さらにこれらの基礎研究に基づき、材料科学分野のイノベーションを先導した。その主な業績として、(1)種々の二分子膜固定化法を開発し、精密組織膜を実現した。固定化された二分子膜は、臨床検査用の全自動電解質分析装置(医療・臨床検体検査)の電極に応用されている。(2)有機分子組織体を鋳型とする二次元高分子・二次元シリカ超薄膜の合成をはじめて実現した。(3)近年では極限的な薄さ(約15nm)を有し、十分な強度と柔軟性を兼ね備えた自立性巨大ナノ薄膜の作製手法を開発した。現在、燃料電池の開発をはじめ、広汎な分野への応用が期待されている。
以上のように、國武博士は、先端材料設計の最も重要な概念の一つとして広く認められている「分子組織化学」の概念、ならびに自己組織化を基礎とする材料科学の基盤を確立するとともに、当該分野で優れた人材を数多く育成し、国際的な学術交流にも大きく貢献している。
以上の理由によって、國武豊喜博士に先端技術部門における第31回(2015)京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです