Graham Farquhar
第33回(2017)受賞
生物科学(進化・行動・生態・環境)
/ 植物生理学者
1947 -
オーストラリア国立大学 特別教授
光合成の炭素同化反応の機能モデルを開発することで、植生と大気の間での二酸化炭素交換の環境応答が予測できるようにし、加えて光合成や蒸散における炭素と酸素の安定同位体が分別される反応の数理モデルを開発して、環境科学と気候変動科学の発展に寄与してきた。
植物による光合成は、地球上のすべての生態系を支える基盤であり、その機能的理解は農業生産と生態系の環境応答を解析する上で重要である。陸上植物は、乾燥を防ぎながらも二酸化炭素を大気から取り入れるために、気孔の開閉を制御する。その結果、光合成による二酸化炭素同化速度と水の蒸散は切り離して考えることができない。
グレアム・ファーカー博士らは、炭素同化酵素であるルビスコの反応が光合成の律速要因として重要であることに注目して、光合成の機能モデルを開発した。1980年に発表されたこのモデルは、細胞や個葉から森林生態系まで広く応用され、植生と大気間の二酸化炭素交換の環境応答を数値解析することを初めて可能にした。このモデルは、農地、草原、森林などの多様な植生が人間活動による大気中の二酸化炭素増加にどのように応答するか、また、その応答は水の供給や温度にどのように影響されるか、などを解明するための光合成反応のモデル解析に広く使われている。特に、現行の陸域生物圏炭素循環モデルのほとんどに組み込まれており、気候変動科学においてはなくてはならない存在である。
さらに、陸上植物の光合成や蒸散において、炭素と酸素の安定同位体が分別される反応も数理モデル化した。これらの光合成の機能モデルは、その後の植物科学、農学、環境科学、古生物学(年輪解析)、生態系生態学(同位体を用いた食物連鎖の解析)などに広く利用されている。また、ファーカー博士自身も植物科学と環境科学において現在に至るまで活発に研究の前線で活躍を続けている。農学分野への貢献としては、博士は自ら開発した光合成の機能モデルを用いて水分欠乏に強い小麦やピーナッツの選抜に成功し、それらの研究は水利用効率の鍵遺伝子の同定にもつながった。
また、ファーカー博士は、京都議定書を採択した気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)にオーストラリア代表および科学アドバイザーとして参加し、IPCCのメンバーとして気候変動の科学と緩和・適応政策の発展にも大きな貢献を果たしてきた。
このように、過去40年近くにわたって、ファーカー博士は環境科学と気候変動科学の発展に寄与してきた。今後、気候変動の科学がますます重要度を増す中、博士の光合成の機能モデルは世界規模でのさらなる貢献を続けるであろう。
以上の理由によって、グレアム・ファーカー博士に基礎科学部門における第33回(2017)京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです