James Gunn
第35回(2019)受賞
地球科学・宇宙科学
/ 宇宙物理学者
1938 -
プリンストン大学 ユージン・ヒギンズ宇宙物理学名誉教授
広域スカイサーベイによる宇宙探査:天文学の過去から未来へ
2019年
11 /13 水
10:00~17:00
会場:東京大学医学部教育研究棟 鉄門記念講堂
定員:250名(申込受付順)
入場無料
広大な領域の3次元デジタル宇宙地図を作るスローン・デジタル・スカイ・サーベイ計画の構想、機器開発、データ解析など、ほぼ全てにおける指導的役割を通じて、宇宙の進化史解明に貢献するとともに、先駆的な宇宙物理学理論を数多く発表し、人類の宇宙に対する理解に多大な影響を与えてきた。
ジェームズ・ガン博士は、宇宙の3次元デジタル地図を作成するスローン・デジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)プロジェクト(1)を構想し、観測やデータ解析に必要な革新的技術を開発するとともに、賛同者を募ってそれを成功裡に実現した。ガン博士は、SDSSから生み出された膨大かつ精緻な観測データから、宇宙史と天体の諸性質に関する理解を深めることに貢献しただけでなく、膨張宇宙のパラメーターをかつてない精度で決定することにも大きく寄与した。
ガン博士は、SDSSの中枢となる2.5m専用広視野望遠鏡(2)、超大型モザイクCCDカメラ(3)、640天体を一挙に観測できる多天体分光器(4)の設計を主導した。SDSSは、米国の7機関と日本グループにより1992年に開始され、2000年4月から本観測が始まった。その後、観測データと研究成果が公開されるにつれて参加機関は25機関に増加した。2009年までに、 2.3億個の天体がカタログ登録され、そのうちの明るい銀河93万個、クェーサー 12万個、恒星46万個のスペクトルが取得された(5)。この均質で圧倒的な情報量を誇る天体カタログの公開により、数多くの発見がもたらされ、SDSSは観測天文学史上最も成功したプロジェクトの1つとなっている。
SDSSで作成された3次元デジタル宇宙地図から、宇宙大規模構造の進化史が明らかとなり(6, 7)、数多くの遠方クェーサー(8)や重力レンズ天体(9)、低温褐色矮星の新種族(10)などが発見された。SDSSで得られた銀河分布データは、宇宙マイクロ波背景放射温度分布のデータと組み合わされ、宇宙における通常物質(5%)、ダークマター(25%)、およびダークエネルギー(70%)の割合を明らかにした(11)。現在これが宇宙の標準モデルとなっている。
ガン博士は、SDSSを主導したのみならず、初期宇宙の電離度を決定する手法(12)など、先駆的な宇宙物理学理論(13)を数多く発表するとともに、様々な観測機器開発においても著しい貢献を行ってきた。専門の細分化が進行する現代天文学において、ガン博士は、理論・観測・機器開発のいずれにおいても傑出した成果を生み出した希有な天文学者である。
以上の理由により、ジェームズ・ガン博士に基礎科学部門における第35回(2019)京都賞を贈呈する。
参考文献
(1)York DG et al. (2000) The Sloan Digital Sky Survey: technical summary. The Astronomical Journal 120: 1579‒1587.
(2)Gunn JE et al. (1998) The 2.5 m telescope of the Sloan Digital Sky Survey. The Astronomical Journal 131: 2332‒2359.
(3)Gunn JE et al. (1998) The Sloan Digital Sky Survey photometric camera. The Astronomical Journal 116: 3040‒3081.
(4)Smee SA et al. (2013) The multi-object, fi ber-fed, spectrographs for the Sloan Digital Sky Survey and the baryon oscillation spectroscopic survey. The Astronomical Journal 146: 32.
(5)Abazajian KN et al. (2009) The seventh data release of the Sloan Digital Sky Survey. The Astrophysical Journal Supplement Series 182: 543‒558.
(6)Eisenstein DJ et al. (2005) Detection of the baryon acoustic peak in the large-scale correlation function of SDSS luminous red galaxies. The Astrophysical Journal 633: 560‒574.
(7)Becker RH et al. (2001) Evidence for reionization at z~6: detection of a Gunn-Peterson trough in a z=6.28 quasar. The Astronomical Journal 122: 2850‒2857.
(8)Fan X et al. (2001) High-redshift quasars found in Sloan Digital Sky Survey commissioning data. IV. Luminosity function from the fall equatorial stripe sample. The Astronomical Journal 121: 54‒65.
(9)Oguri M et al. (2006) The Sloan Digital Sky Survey quasar lens search. I. Candidate selection algorithm. The Astronomical Journal 132: 999‒1013.
(10)Hawley SL et al. (2002) Characterization of M, L, and T dwarfs in the Sloan Digital Sky Survey. The Astronomical Journal 123: 3409‒3427.
(11)Tegmark M et al. (2004) Cosmological parameters from SDSS and WMAP. Physical Review D 69: 103501.
(12)Gunn JE & Peterson BA (1965) On the density of neutral hydrogen in intergalactic space. The Astrophysical Journal 142: 1633‒1641.
(13)Ostriker JP & Gunn JE (1969) On the nature of pulsars. I. Theory. The Astrophysical Journal 157: 1395‒1418.
プロフィールは受賞時のものです