どうやって私たちの遺伝子の
情報は読み取られているのか?
50年以上にわたる研究で、RNA ポリメラーゼ群、基本転写因子群や特異因子の最初の例など、 転写に関わる多くの因子、各々の機能、クロマチンでの転写制御を発見してきた。それらの成果を通じて真核生物における転写制御機構の原理を解明し、生命科学の発展に大きく寄与した。
私は農場で育ち、そこで生涯過ごすものと思われていたので、科学に触れる機会はほとんどありませんでしたし、高等教育を受けることについて家族の援助があったわけでもありません。しかし、強い意志と勤労という両親が育んでくれた価値観のおかげで、幸いにして私は大学での学業を修め、生化学の博士号を取得し、研究職を得て生物科学の分野で刺激的な研究を夢中で続けてこられたのです。私は、大学・大学院・ポスドク時代の先生方の影響で、正常なヒトの発生や生理学(および関連する病理学)にとって根本となる遺伝子の発現調節について、転写(RNAポリメラーゼによってDNAをRNAに写し取ること)という段階に注目しました。1959年に初めて、内因性RNAポリメラーゼの活性がラット肝臓の細胞核で同定されましたが、その後はより大量なバクテリアの酵素に焦点が当てられており、そのRNAポリメラーゼは1969年に精製され、遺伝子プロモーターおよび遺伝子特異的制御因子と直接相互作用することがわかっていました。しかし、後ほどご説明するとおり、また私自身の生化学研究を通じて明らかになったように、真核生物(ヒトの場合、約20,000の遺伝子がある)の転写とその制御機構は、はるかに複雑でした。主な発見をご紹介します。(1)1969年、真核生物における細胞核RNAポリメラーゼ(Pol)I、II、IIIの同定――「エウレカ!」の瞬間、(2)それらの、それぞれ別の遺伝子を特異的に転写する機能とサブユニット構造、(3)コアプロモーター認識および転写開始前複合体への会合を促進するポリメラーゼごとの基本開始因子群、(4)真核生物での遺伝子特異的転写活性化因子の最初の例(TFIIIA)、および、原核生物とは異なりTFIIIAが部位特異的にプロモーターに結合して基本開始因子を誘導し、さらにポリメラーゼを誘導するという機構、(5)基本および遺伝子/細胞特異的転写活性化補因子(活性化因子との直接相互作用に関する機構も含む)、(6)一般的な転写抑制機構――プロモーターをヌクレオソーム内へ包含――これによりPol IIとその開始因子が細胞特異的遺伝子を無差別的に転写できてしまうことを抑制、(7)ヒストンアセチル基転移酵素による転写活性化因子とヒストンの機能的修飾、(8)試験管内において、転写抑制型クロマチンからの転写におけるヒストン修飾の必須の(必然の)役割――(生体内との相関から)想定されていたヒストン修飾の転写における役割の正式証明、(9)転写抑制型組換えクロマチン鋳型からの転写を行い、類のない転写メカニズム研究を可能にした生化学的実験系(精製Pol II、基本開始および伸長因子、活性化因子、活性化補因子による)。これらの発見は、真核生物の転写にかかわる予想以上に複雑な機構について重要な知見をもたらし、現在に至る後続の他手法による転写制御研究の基礎となりました。また、われわれの健康維持や疾患治療における遺伝子制御の重要性に深い意味を持っています。
理解を深めて、発見を重ね、対象の仕組みを理解しようとし続けることは、自らに課した長く厳しい道でした。
※ プロフィールは受賞時のものです