ポーランド映画界の巨匠、アンジェイ・ワイダ監督が10月9日、逝去されました。90歳でした。実在した悲運の画家ブワジスワフ・ストシェミンスキを題材にした作品『残像』(英題:Afterimage、原題:Powidoki)を発表したばかりでした。
ワイダ監督は1987年、「ポーランドの激動の歴史をみつめ、人間の自由と勇気、尊厳のあり方を表現し、世界に大きな影響を与えた映画監督」として第3回(1987)京都賞思想・芸術部門(当時は精神科学・表現芸術部門)を受賞。
“素晴らしい京都賞を会長からいただくに際しまして、私にとってドイツ占領下の戦時中で最も苦しい年にポーランド・クラクフ市で開催されました日本美術展という希有な出来事が思い起こされ、私の思いは過去に戻りました。そのとき、私は19歳でした。そのときまで、私はこれほどの明瞭さ、明るさ、秩序、そして調和感というものを見たことがありませんでした。”
“私はたいへん幸せな気持ちでおります。本日いただきました京都賞が、ポーランドと日本の架け橋のみならず、クラクフ市に日本美術館を設立したいという想いをとおして、20世紀と21世紀の架け橋となることを願っております。”
―― 第3回(1987)京都賞授賞式でのスピーチより
ワイダ監督は授賞式でのスピーチのとおり、1994年、母国の古都クラクフ市に「日本美術技術センター Manggha(マンガ)博物館」を設立。日本の伝統文化に関心をもつ現地の大学生を京都へ派遣するなど、文化を通じた日本とポーランドの友好にも多大な貢献を果たされました。
2009年5月、稲盛財団はポーランド・クラクフに監督を表敬訪問しました。京都賞受賞当時を振り返り「映画祭などで贈られる賞はたくさんあります。しかし、京都賞のような厳かで重要な賞はありません。京都賞がビジュアルな芸術分野を初めて対象にしてくれました」とお話くださったのが、とても印象的でした。
心よりご冥福をお祈りいたします。